旭川の豚トロと塩ホルモン 新鮮素材、パックで通販も
北海道上川地方の中心都市である旭川市には盛んな養豚業を生かしたメニューがある。豚の内臓を素材にした「塩ホルモン」、ほほ回りの肉「トントロ」で、塩コショウの味付けが主流だ。シンプルな味付けは新鮮な素材が手に入る旭川ならでは。臭み消しを兼ねたしょうゆやタレ味ではないのが新鮮さの証しだ。
塩ホルモンが生まれたのは約50年前とされる。トントロは約30年前までは、筋が多く、ひき肉用素材に使う程度だった。旭川の卸業者の会合で「ピンクの肉にサシが入り、マグロのトロのようだ。豚のトロだ」と声が上がり、意気投合した各社が飲食店に売り始めた。トントロの商標は後に千葉県の業者が取得したが、食肉卸、小滝畜産の小滝達也社長は「旭川が発祥だ」と胸を張る。同社は1995年から「北の大手門」シリーズでパック商品を販売している。
飲食店が集まる5条通そばにある「塩ホルモン 炭や」に足を運ぶと、炭火焼きの香ばしい香りが店の外まで広がっていた。肉メニューのうち半数以上12品が北海道産豚メニューという徹底ぶり。臭いの元となるぬめりを取るため、2人掛かりで2時間洗った上で、包丁入れや味付けの仕込みに入る。
「中まで火が通るよう焦げる手前でひっくり返すのがこつ。塩ホルモンはこんがりした表面と内側のジューシーさが味わえる。トントロも香ばしさが増す」と話すのは、同店の塩ホルモンアドバイザー、渡部大樹さん。多くのメニューは1人前180グラムとボリュームたっぷり。
トントロを七輪に載せると脂がしたたり落ち、火が勢いよくあがった。丁寧な仕込みのおかげか、硬さは感じない。「タレも用意しているが、まずはそのまま食べてほしい」(渡部さん)と、自信ありげだ。同店は札幌市とさいたま市にも店舗があり、旭川とほぼ同じメニューだ。
次に旭川空港(東神楽町、旭川市)のフードコートにある「鉄板焼 旭人」を訪ねた。「炭や」ブランドのパック商品も販売する市内の食肉卸、米谷産業の外食店で、野菜を添えて提供。地元産のトントロとサガリ(横隔膜)を用いた「豚ホルモンのミックス焼き」は塩コショウの味付けで、野菜にもうまみが染み込む。辛子味噌が添えられ味の変化も楽しめた。
専門店の他、チャーシュー代わりにラーメンに添えるなどとアレンジも豊富。気軽に現地に足を運ぶのは難しいご時世だがネット通販で買えるパック商品もある。自宅でも北の大地を感じてほしい。
旭川市中心部は京都市や札幌市などと同様、碁盤の目状に道が整備されている。南北の通りは「昭和通」や終日歩行者天国の「平和通買物公園」など、東西の通りはJR旭川駅側から宮下通、その北は1本おきに1条通、2条通、3条通となっており、間の通りは「2.3仲通」のように呼ぶ。
飲食店集積地は昭和通と3条通が交わる通称「3.6(さんろく)街」で、入りやすい大きめの店が並ぶ。一方、地元密着型の店が並ぶ小路も多く、炭やのある、あかしや小路など昭和風情が味わえる。
(旭川支局長 檀上泰弘)
[日本経済新聞夕刊2021年6月3日付]
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