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新型コロナを機に医療体制をめぐる国民の「なぜ」に答える本の出版が相次ぐ

新型コロナを機に医療体制をめぐる国民の「なぜ」に答える本の出版が相次ぐ

新型コロナウイルスの感染拡大で日本の医療に対する国民の疑問が強くなった。急性期病床を抱える多くの民間病院はなぜコロナ患者を受け入れないのか。政治や行政はなぜ病床不足に有効な手立てを打てずに3回も緊急事態宣言の発令に追い込まれたのか。世界に誇る長寿社会を支えてきた日本の医療は、なぜこんな体たらくになったのか――。

どんどん深まる国民の「なぜ」に答え、立て直しの道筋を描こうとする本の出版が続いている。

『患者と医療従事者の権利保障に基づく医療制度』(岡田行雄編著、現代人文社、2021年3月)の副題は「新型コロナウイルス禍を契機として考える」。コロナ患者が医療を受ける権利、コロナ患者を診る医療従事者が地域社会などで差別を受けずに労働者として適切に扱われる権利。この2つの人権から日本の医療体制を検証していくアプローチが新鮮だ。

これらの権利はいずれも今の日本では侵害されているという。たしかに入院先がみつからずに自宅療養で亡くなる患者がいる。コロナ患者を受け入れる一部の病院の医療従事者に過重な労働負荷がかかり、子どもが学校でいじめに遭う人もいる。こうした現状は単なる病床逼迫という問題を超え、もはや人権問題の領域だ。

同書はコロナ患者の人権を手厚く保護することが医療を公共財として充実させ、医療従事者の人権を守ることにもつながると説く。そのために患者の権利保障を定めた医療基本法の制定が急務だと訴える。法律の研究者らによる分析らしく、人権保障を起点にコロナで露呈した医療の機能不全を立て直す処方箋をまとめている。

『医療崩壊の真実』(渡辺さちこ、アキよしかわ著、エムディエヌコーポレーション、21年1月)はデータを駆使して日本の医療の問題をまとめている。病床問題の本質は医療機関の機能分化と連携ができていない点にあり、少子高齢化をにらめば医療機関の再編・統合が待ったなしの状況に追い込まれていると分析している。

『地域医療は再生するか』(三原岳著、医薬経済社、20年11月)は新型コロナ禍を踏まえ、総論賛成・各論反対になりがちな地域医療体制の改革を進めていくポイントを整理した。

政府や自治体、医療界は、国民の医療体制への関心の高まりを改革の推進剤にしていく必要がある。

(編集委員 柳瀬和央)

[日本経済新聞2021年5月29日付]

患者と医療従事者の権利保障に基づく医療制度

著者 : 岡田行雄
出版 : 現代人文社
価格 : 2,750 円(税込み)

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