コロナ下で中華まん刷新 量販店の変化、足でつかむ井村屋 古川貴博さん

井村屋の古川貴博さん
井村屋の古川貴博さん

井村屋は津市に本社を置く食品メーカーだ。アイスの「あずきバー」や中華まんで高い知名度を誇る。同社の商品は全国のスーパーやコンビニエンスストアで手に取ることができる。小売りのプライベートブランド(PB)の製造も担う。同社の量販営業部で全国に店舗網を持つ流通大手を担当する古川貴博さんは新型コロナ下でも不屈の精神で販路や売り場を開拓している。

新型コロナウイルスの感染が広がり出した2020年2月ごろ、古川さんは日ごろから連絡を取り合う卸売業者に声をかけられた。「コロナで冷食がけっこう売れているらしい」。新たな商談の機会になる予感がした。

冷凍食品市場は共働き世帯や個食の増加を背景に堅調で、大手食品メーカーがしのぎを削る。古川さんは19年6月ごろから、大手小売りに取引拡大を熱心に持ちかけたが、苦戦していた。特に冷凍中華まんを売り込んだが、長らく競合他社の商品が売り場スペースを確保しており、一定の評価をもらえても商品の入れ替えまでは至らなかった。

「過去に例がないから無理だと思ったら、チャンスもなにもない」。新型コロナの影響がどうなるか分からないが、今しかないと鉢巻きを締め直した。

他社製品の分析から始め、消費者が求める肉感やジューシーさを研究した。開発や製造の担当者と話し合いを重ね、独自製法でもっちりとした旨みと香り豊かな手包みのような生地の冷凍中華まんができた。個包装にして小分けで食べやすいよう提案するなど、ライバル商品との違いを打ち出し、従来できなかった販路開拓に成功した。

今でも支えとなっている経験がある。入社3年目、営業を任された和歌山県でのことだ。なかなか納品できない時期が続いた。「商談に出かけても空振りに終わり、社内の営業目標も達成できない本当につらい日々だった」。そんな時、日ごろから積極的に連絡を取り合っていた卸の担当者から「本部だけでなく町の店舗も回ったら」とアドバイスをもらった。

朝から晩まで1日で10店舗以上を駆け回った。カーナビがないため、紙の地図を広げて店と店をつなぐ道を鉛筆でたどり、最短ルートを探し続けた。門前払いにあうこともあったが、店舗の責任者に直接売り込みを続けた。すると、今まで見えていなかったことが分かってきた。

例えば6月にスーパーの店頭を訪ねると、本格的な夏に向けて涼しげな水ようかんの拡販を検討していた。さっそく商品の陳列や装飾に使う「什器(じゅうき)」を納めようとした時だ。「このサイズじゃあ、はまらないよ」。この店舗では陳列棚の構造上、井村屋の商品を並べるための器具を取り付けることができなかった。

古川さんは「仮に本部にこの商品が採用されても、この店舗ではあまり入れてもらえない」と気づかされた。ささいなことだが、「それすら知らなかったのか」と反省した。もっと売り場の実態をつかもうと、それから2年ほどは用事が無くても取引先の店舗を回り続けた。次第に販売現場のニーズもつかんだ上で本部に商品や販促策を提案できるようになり、営業成績は上向いていった。

古川さんが諦めない気持ちと同じくらいに大切にしているものが、積極的なコミュニケーションだ。その際には、「偏見や先入観を絶対に持たない」ことを心がけている。「先入観は必ず行動を無意識にでも制限してしまう。どうせ無理だろうと思うことでチャンスを見逃しているかもしれない」

古川さんが今後目指すのは、冷凍食品のさらなる取引拡大だ。「中華まんをきっかけに品質や値ごろ感を知ってもらえた。もっと多くの商品を売り込んでいきたい」と意気込む。そのためには卸や小売り、そして消費者が集まる売り場に足を運び、担当者らと雑談でもいいから交流する。「そこからヒントをもらえることも多い。足を運ばないと何も始まらない」。得意のフットワークに磨きをかけていく構えだ。

(名古屋支社 宮田圭)

ふるかわ・たかひろ
 07年に井村屋入社、関西支店で和歌山県を中心とした営業担当、12年関東支店に異動。15年から現在の量販営業部で大手小売店を担当する。大阪府出身。

[日経産業新聞 2021年5月24日付]


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