しかしその内情を見ると、女性の雇用者のうち半数以上は非正規労働者が占める。この割合は男性の2倍以上だ。そして年齢に伴い女性の非正規雇用の割合は上昇する。
日本では残業付きであることの多いフルタイム就業ができない場合、働き方の選択肢は非正規労働に限られる。さらに性別役割分業意識が強く、家事・育児負担の多くは女性が負う。そのため働く女性が増えても、結婚・出産後に職を失った際の再就職先はほぼ非正規雇用だ。女性の活用は進んだが、結果的には非正規労働者という雇用の調整弁としての活用だった。
スキル高まらず、職探し困難に
これが、今回のコロナ禍で職を失った主婦らが、再就職をあきらめる一因となっている。非正規労働者の多い飲食や宿泊といったサービス業は雇用が蒸発。建設や医療・情報通信分野などの求人は堅調でも、スキルや希望が一致しない。
大阪市の50代の女性は昨年8月、コロナによる業績不振で4年間勤務したコールセンターのオペレーターのアルバイトを解雇された。すぐに就職活動を始めたが、コールセンターの仕事は、タッチタイピング技術が必須となりつつある。今までパソコンを本格的に使ったことがなく、面接にすら進まないという。
2歳と0歳の子どもを育てる静岡県在住の女性(35)は「就職活動をするにも子どもの預け先がない」と話す。昨年8月、第1子の育休中にコロナによる業績悪化で契約社員の職を失った。無職では保育園の入園も難しい。身動きが取れず家庭にとどまる。
慶応大学の風神佐知子准教授(労働経済学)は「産後の女性は安定した雇用に戻れないという労働環境の脆弱さがコロナ禍でもろに表面化した」と指摘する。非正規労働者の賃金や労働条件は低い状況にあるうえ、能力開発機会が少なく、スキルアップできぬまま固定化してしまう。「家事や子育てを理由に短時間労働を選ぶ女性に、職場は補助的な働きだけを求めてきた。そして労働者自身もキャリア形成の意識が低かった」
風神准教授は「企業や政策で女性の職能スキルを高める相応のコストを出すべきだ。テレワークなど新たな働き方が広がれば、働きたくても働けなかった女性の潜在労働力を発掘する機会にもつながる」と話す。女性活躍の流れを巻き戻さぬよう、社会の構造を変える必要がある。
非正規の女性雇用者が減る一方、正規雇用者は増えている。労働力調査によると2020年度平均の女性の正社員は前年度比36万人増え、男性の同4万人減に比べて大きく伸びた。産業別の雇用者数では医療・福祉が前年度比12万人増、情報通信業が同4万人増など、コロナ禍でもニーズの高い職種が目立つ。
ただし日本女子大の周燕飛教授は、医療や福祉の現場はコロナ前から慢性的な人手不足だったと指摘。「コロナ禍で仕事を失った人が一時避難的な就労場所としてケア労働に従事している可能性がある」と分析する。「景気が回復すれば他業種へ転職する予備軍だ。国や企業は女性が働き続けるためのキャリア形成をしたり、希望の業種に就けるように良い就労環境をつくったりする必要がある」と話している。
(松浦奈美)
[日本経済新聞朝刊2021年5月24日付]