沖縄そば、県内に300店舗 起源は琉球王朝の宮廷料理?
沖縄を訪れる多くの人が口にする沖縄そば。地元では「すば」とも呼ばれ、かつおだしに甘辛く煮た豚肉やかまぼこを添えたメニューが定番だが、店によってさまざまな味が楽しめる。起源は琉球王朝時代との説もあり、味わいと歴史の奥行きは深い。
那覇市に地元客が足しげく通う店があると聞いて訪ねた。1998年に開店した「沖縄すば処 月桃」だ。沖縄そばはそばといってもそば粉は使用せず100%小麦粉でつくる。かん水を用いた、ほのかに黄色い細めでかための「ゆで麺」が一般的で、製麺所から仕入れる店が多い。だが同店は木灰水を使った伝統製法で「生麺」を手打ちする。木灰水とは木灰を水と混ぜ上澄みをすくったもので、麺にコシと独特の風味が出る。
店主の金城節子さんの息子、充さんが毎日仕込む。充さんは「手間はかかるが、伝統の味を楽しんでもらいたくて」と話す。豚の骨付きあばら肉が具材の「ソーキそば」をいただくと、太めの麺はつるつるもちもちだった。
沖縄そばの普及は明治時代後期以降で、大正時代に現在の形となったとされる。沖縄戦で多くのそば店は焼失し、戦後米軍が持ち込んだメリケン粉(小麦粉)で復活を遂げた独自の歴史を持つ。ルーツは中国と交易していた琉球王朝の宮廷料理との説もある。
歴史情緒あふれる首里の町を見下ろす高台にあるのが2005年開店の「沖縄そばの店 しむじょう」(那覇市)だ。築150年超の琉球石灰岩の石垣に囲まれ、築70年近くの古民家を店舗に活用する。国の登録有形文化財にもなっており、庭は緑豊か。
かつおと豚骨を使ったあっさりめだがコクがあるスープが評判だ。三枚肉などを具材にしたそばと、沖縄風炊き込みご飯「じゅーしー」や、「ジーマミー豆腐」を楽しめるセットメニューが人気で、店主の新垣英司さんは「沖縄の昔ながらの雰囲気と味を満喫してほしい」と語る。
02年開店の「麺処 てぃあんだー」(同市)はこれからの季節にぴったりの冷やしそばを提供する。麺は自家製で、ふーちばー(よもぎ)を練り込んだ風味豊かな「冷やしふーちばーそば」は「すぐ売り切れてしまう」(店主の平田吉治さん)ほど人気という。
沖縄そばは県内に専門店だけで約300店あるとされ、地域の特色がある。麺は本島北部は平打ち、石垣島の「八重山そば」は丸く細め。宮古島の「宮古そば」はやや平たく下に具を隠して出す。新型コロナ収束後は沖縄観光しながら各地の味を楽しみたい。
沖縄そばはそば粉を一切使用しない。本土復帰後の1976年、公正取引委員会は業界に「そばの名称は使えない」と指摘。交渉の末、公取委は78年に「本場沖縄そば」と呼ぶことを特例的に認めた。これを記念し97年に業界は、名称が登録された10月17日を「沖縄そばの日」と定めた。
2011年には県内店主らが「沖縄そば発展継承の会」を発足。毎年10月から5カ月間、そば店を巡るスタンプラリーは全国から参加者が集まる。野崎真志会長は「活動を通じ沖縄そば文化を広めたい」と話す。
(那覇支局長 佐藤一之)
[日本経済新聞夕刊2021年5月20日付]
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