汗びっしょりで仕事にも影響 多汗症、悩まず受診を

写真はイメージ=PIXTA
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暑さや緊張の有無に関係なく、大量に発汗する症状に悩む人は少なくない。仕事に支障が出るなどして、対人関係にも消極的になりがちだ。実は汗かきといった体質ではなく、「多汗症」と診断される可能性がある。治療薬などで症状が軽くなるケースもあり、専門家は「独りで悩まず、気軽に受診してほしい」と訴える。

「接客業なので、わきの汗は相当なストレスになっている」。東京都内の百貨店に勤務する女性(28)はこう打ち明ける。

接客時、衣服がびっしょりになることもある。わきに汗取りパッドを付けるなどして対応するが、周囲に気づかれないよう神経質にならざるを得ない日々だ。

10代後半からわきの下の発汗に悩んできた。発汗が多い汗かきと思い込んできたという。仕事に支障が出るときもあり、数年前に受診したところ、多汗症と診断された。

同様に自分が多汗症だと気づかないケースは珍しくない。

厚生労働省が2009年度、企業や学校の健康診断時などの際に実施した調査では、実際にわきの多汗症と診断されたのは5.75%だった。約20人に1人が症状を抱えている計算だ。

日常生活への影響は大きく、深刻な悩みを抱える患者は多い。手汗で書類をよれよれにしてしまったり、パソコンやスマートフォンを大量の汗で故障させたり。同調査では多汗でない人に比べ、仕事や勉強の生産性がほぼ半減といった結果も出た。

なぜ多汗症は起こるのか――。

日本皮膚科学会の担当者は「発汗を促す交感神経が人よりも興奮しやすい可能性がある」と話す。ただ、明確なメカニズムは解明されておらず、現状は病気の原因を解決するといった根本的な治療は難しいという。

症状が出る部位も様々だ。多汗症は甲状腺疾患など別の病気が原因で起こる「続発性」と、明確な原因が不明な「原発性」に分類される。わきの下や手のひら、足の裏など汗腺が多い部位に生じる「局所多汗症」は9割以上が原発性に該当するという。

多汗症に該当するかどうかは、同学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン」が基準を示している。

(1)最初に症状が出る年齢が25歳以下(2)部位の左右両方に発汗がある(3)睡眠中は発汗が止まる(4)1週間に1回以上の多汗(5)家族も同様の症状(6)日常生活に支障が出る――といった6項目だ。「2項目以上が6か月以上」続けば、多汗症の可能性がある。

対処が難しい面もあるが、近年、効果的な治療薬も報告されている。その一つが2020年に登場した新薬「エクロックゲル」。塗り薬でわきの下の汗に有効とされる。

治験に関わった池袋西口ふくろう皮膚科クリニック(東京・豊島)の藤本智子院長は「汗腺を刺激する神経伝達物質をブロックし、発汗を抑える効果がある」と解説する。

百貨店勤務の女性もこの新薬を使い始めたところ、「接客中にわきの下を流れる汗を感じなくなった。副作用もないようだ」と話す。このほか注射などで症状を弱める治療法もあるという。

多汗症は日常生活への影響は大きい一方、疾患だとの認識は広がっておらず、独りで悩んでいる人は多い。対症療法で症状を抑えるしかないのが実情だが、治療で改善するケースは出ているという。

「『体質だから』とあきらめず、まずは受診してほしい」。藤本院長は「発汗の部位や量に応じ、適切な治療法を選ぶことが欠かせない」と呼び掛けている。

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患者の悩み、理解求める活動も

多汗症をめぐっては、生活の不便さに加え、手の汗で握手が苦手といった悩みが患者から聞かれる。孤立しないよう、社会に理解を求める活動が広がりつつある。

映像クリエイター、本間洸貴さん(29)は2019年、多汗症がテーマの映画を制作した。自らも多汗症で、これまで汗を隠す対策に苦労してきた。「少しでも患者の悩みや苦労を知ってもらいたい」との思いで撮影したという。

独自の商品開発で後押しするのは東京都の守矢奈央さん(26)。同様に重度の症状に悩んできた経験を逆手にとり「多量の汗に負けない靴下を開発した」。

3年にわたり繊維メーカーと協議を重ねたうえで、吸水性や速乾性、防臭性の機能を高めた。

運営するオンラインショップで販売し、人気を集めているという。守矢さんは「当事者の視点を生かし、弱みを強みに変えていきたい」と話す。

(ライター、南雲つぐみ)

[日本経済新聞夕刊2021年5月12日付]

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