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明電エンジニアリングの富江僚夏さん

明電エンジニアリングの富江僚夏さん

電源装置など電気設備の点検やメンテナンスを行う明電エンジニアリングの富江僚夏さん(29)は、同社で初めて女性の営業職として活躍している。取引先に頻繁に足を運び、相手が本当に必要としているものは何か、顧客がまだ気づいていない改善策はないか意識する。女性の営業職は業界全体でもいまだに限られるが、自分がロールモデルになろうと心がけている。

保守管理を中心に担う会社の営業として心がけるのは、取引先から「困った時はとりあえず明電さん」と思ってもらえる信頼を得ることだ。

最近では50カ所近くの支店を持つ銀行から、全国の支店で非常用発電設備の設置を請け負った。東京近辺の支社で実績があり、他社設備の点検も請け負っていることを伝えていたため、「何かあったら相談させてほしい」と相手の信頼を得ていたことが受注につながった。

非常用電源は常に使うものではなく、設備投資として優先度は低くなりがちだ。しかし、近年多発している地震や豪雨など災害時のケースから重要度を丁寧に伝えた。実際にある支店の地域で停電が起きた際も、移動電源車をすぐに手配して、頼りになる存在だと改めて認識してもらう機会になった。「使うか使わないかは結果なので問題ではない。大事なのはきちんと手配できたことだ」と話す。

心に残っている営業経験がある。取引先に初めて設備の更新を提案した時だ。明電エンジニアリングは主に点検やメンテナンスの提案で機械の延命や維持管理を図る。ただ、設備の老朽度などから判断して、フルスペックの設備更新が良いと考えた。

設備更新には相当の金額がかかる。富江さんは「相手が本当に必要としていることを聞き出そう」と丁寧な説明を心がけた。更新が決まっても、相談は続いた。更新までの間も装置を問題なく動かす必要がある。故障を起こしてはならないが、更新まで一時的に使う設備を入れると顧客のコスト増につながってしまう。最善で最小限の延命に必要なメンテナンスや設備の入れ替えを、技術職や取引先を交えて組み立てていった。

もともと技術的な知識を身につけていたわけではない。大学時代の専攻も理系ではなく、入社するまで電気の供給の仕組みも知らなかった。

だからこそ大切にしているのが、周囲の人に正しく頼ることだ。持ち前のチャレンジ精神が先走ってしまい、一人で解決しようと抱えこみ過ぎる時期もあったが「何よりもお客様のために」と考え、周囲の力をどう借りるか見極める方法を身につけた。

例えば開発など技術系の人には、まず自分が理解できるまでたくさん質問をして理解を深める。問題が発生したら、すぐに上司に情報を共有する。行き詰まったときはお客様ファーストで考えることで、自然と自分がどう動くべきなのかが見えてくる。

主任という立場に就き、後輩にも女性の営業職が入ってきたこともモチベーションにつながっている。

入社当時はあまり気にしていなかった富江さんだが、実際に営業を続けていると、きちんと仕事をこなしてくれるのか、取引先が性別を理由の1つとして不安に思っている様子を感じたこともあったという。

ただ、目立つからこそ話を聞いてもらい、自分を知ってもらう機会にもなるはずだと捉え、ピンチはチャンスと考えて課題に向き合ってきた。今後はさらに重電系の業界の女性営業職として、「自分がロールモデルになりたい」という思いがある。

明電エンジニアリングはもともと風通しが良く、働き方への要望や相談事はないか、上司からよく意見を求められ、話をするとすぐに対応してくれた。結婚を決めたときも、働き続けることに不安は全くなかったという。

将来、出産や子育てを選ぶ場合にどんな働き方をするかはまだ決めていない。それでも自分のライフスタイルを大事に、「ずっと女性が働いていける環境を見つけ出したい」。多様な人材が活躍する職場や業界に向けて、キャリアをひらこうとしている。

(越智小夏)

とみえ・りょうか
 14年に明電エンジニアリング入社。関東支社営業部に配属。商業ビルや工場に入っている電気設備のメンテナンス提案を担当する。20年から主任に。東京都出身。
[日経産業新聞 2021年5月12日付]

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