高い評価を受け、鳥羽商船のメンターを2年連続で務めたABEJA(東京・港)の岡田陽介・最高経営責任者(CEO)も思わずガッツポーズ。「大きな設備投資がしにくい東南アジア市場にもがっつり入り込んでいける」と、満足げに改めてこの作品をアピールした。
進化型の白杖
3位は北九州工業高等専門学校(北九州市)の視覚障がい者向け歩行補助器具「盲導Cane(ケーン)」だ。
視覚障がい者は日本に30万人以上いるとされる。外出時には盲導犬や白杖(はくじょう)の携行が道路交通法で義務付けられているが、取得に時間がかかったり慣れが必要だったりと課題がある。事故もたびたび起きている。
盲導Caneはディープラーニングを活用した進化型の白杖と言える。地面の点字ブロックをカメラで撮影し、進行方向を示す線状と、注意喚起する点状の2種類のブロックを検出。振動でユーザーに知らせる。画像認識の精度は高く、誤検出はあるが見逃すことはほぼないという。
プレゼンでは背景や課題、補助金制度の活用を含めたビジネスモデルなどを4人が説明。日本発祥の点字ブロックが世界数十カ国に広がっていることに触れ、市場の大きさも強調した。質問タイムでは審査員から、補助金の適用や法律上の扱いなど実用的な質問も出た。言葉に詰まる場面もあったが、メンターの力を借りず乗り切った。
審査員で経営共創基盤の共同経営者を務める川上登福氏は「同じモデルで世界展開できるのが面白い」と評価した。メンターを務めたコネクトーム・デザイン(東京・千代田)の佐藤聡社長は「困っている人がいるというところからスタートし、起業後の姿を見通せるほどどんどん視座が高くなっていった」と成長に目を細めていた。
2、3位に共通するのは身近で困っている人を手助けしたいという思いで開発に着手しながら、最終的にアジアなど海外市場でも通用する製品・サービスに仕上げたという点だ。今やビジネスは国内展開だけを考えていればいい時代ではない。それを高専生は当然のように知っている。
実行委員長の松尾豊氏(東京大学大学院教授)は「高専生は使える道具の一つとしてディープラーニングを自由に活用している。課題解決としっかり結びつけられれば無敵になる」と強い期待を示した。
19年のプレ大会、20年の第1回大会の参加チームの中には、すでに起業にこぎ着けた学生もいる。もの作りとプログラミングやAIを活用したシステム、ビジネスプランを競うDCONがスタートアップ育成の場になってきた。日本ディープラーニング協会は高専生向けの総額1億円の起業支援基金を創設し、強力に後押しする考えだ。
第3回DCONの開催も決まった。エントリーは21年夏の予定だ。準備期間はまだある。ビジネスの卵が世に出る瞬間をまた見ることができる。こう思うと来年が待ち遠しくて仕方がない。
(福島悠太)
[日経産業新聞2021年5月11日付]