ノリ養殖や歩行補助 高専生の課題解決、海外も狙う
高専DCON観戦記(下)
前回にも増してハイレベルな戦いとなった第2回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(高専DCON)。最優秀賞の福井工業高等専門学校に次いで2位だったのが、鳥羽商船高等専門学校(三重県鳥羽市)だ。
鳥羽商船はデジタル関連の教育に熱心で、歴史ある全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)でも上位入賞の常連校だ。今回のチーム名は「ezaki-lab」。ノリ養殖支援システム「NoRIoT(ノリオーティー)」を提案し、企業評価額は5億円と首位の6億円に迫っていた。
ノリは日本の広い範囲で養殖されている。鳥羽商船がある三重県も産地で、アオサノリの生産量では全国首位を誇る。しかし潮位や水温、栄養など海の状況に生育が大きく影響され、安定した生産が難しい。チームは地元産業のそんな課題に目をつけた。
ノリ養殖支援、サブスクで
ノリ網への種付けから収穫までは7カ月前後かかる。収量を左右するのが「干出(かんしゅつ)」と呼ぶ作業だ。潮位の変化に応じて網を上下させ、適度に空気にさらし光合成をさせることで苗の成長を促す。手間がかかるが、不十分だと病気などで不作になる。カモや魚による食害も悩みの種で、「収量が3割も押し下げられている」という生産者の声を紹介していた。
プレゼンでは動画を交えて課題解決に役立つシステムを提案した。地元企業と共同開発した海洋観測機を使い、水温や潮位などのデータを収集したり画像を撮影したりする。これを人工知能(AI)のディープラーニングで解析する。カモや魚を画像から検出する際は機械学習の技術「ResNet」を活用する。
将来の潮位も複数の予測手法を組み合わせて推定し、干出に適切なノリ網の高さを対話アプリ「LINE」で提示する。潮位の予想は98~99%、カモや魚の検出モデルも93~94%と高い精度を実現した。カモなどを追い払うため毎回違った音を再生して慣れを防ぐといった工夫もあった。
鳥羽商船のビジネスプランでは、海洋観測機を地元企業が販売し、オプション機能としてNoRIoTをサブスクリプション(定額使い放題)方式で提供する。「これで収量が上がれば安い」「ぜひ導入してみたい」。動画では生産者の満足ぶりも伝えた。
観測機は汎用性が高いため、カキなど貝類の養殖支援システムにも展開できるとみる。養殖が盛んな東南アジアにも広げていけると市場の大きさをPRし、発表を終えた。
プレゼンのレベルの高さに審査員も息を飲んだ様子だった。WiL(東京・港)の松本真尚ジェネラルパートナーは質問で「御社」と呼びかけたほどだ。養殖の基礎知識から今後の展開まで様々な質問が出たが、すらすらと答えて準備の周到さがうかがえた。
司会でタレントの小島瑠璃子さんも「ちゃんと(現場に)足を運んで見に行っている。行動が伴っている」と舌を巻いていた。
高い評価を受け、鳥羽商船のメンターを2年連続で務めたABEJA(東京・港)の岡田陽介・最高経営責任者(CEO)も思わずガッツポーズ。「大きな設備投資がしにくい東南アジア市場にもがっつり入り込んでいける」と、満足げに改めてこの作品をアピールした。
進化型の白杖
3位は北九州工業高等専門学校(北九州市)の視覚障がい者向け歩行補助器具「盲導Cane(ケーン)」だ。
視覚障がい者は日本に30万人以上いるとされる。外出時には盲導犬や白杖(はくじょう)の携行が道路交通法で義務付けられているが、取得に時間がかかったり慣れが必要だったりと課題がある。事故もたびたび起きている。
盲導Caneはディープラーニングを活用した進化型の白杖と言える。地面の点字ブロックをカメラで撮影し、進行方向を示す線状と、注意喚起する点状の2種類のブロックを検出。振動でユーザーに知らせる。画像認識の精度は高く、誤検出はあるが見逃すことはほぼないという。
プレゼンでは背景や課題、補助金制度の活用を含めたビジネスモデルなどを4人が説明。日本発祥の点字ブロックが世界数十カ国に広がっていることに触れ、市場の大きさも強調した。質問タイムでは審査員から、補助金の適用や法律上の扱いなど実用的な質問も出た。言葉に詰まる場面もあったが、メンターの力を借りず乗り切った。
審査員で経営共創基盤の共同経営者を務める川上登福氏は「同じモデルで世界展開できるのが面白い」と評価した。メンターを務めたコネクトーム・デザイン(東京・千代田)の佐藤聡社長は「困っている人がいるというところからスタートし、起業後の姿を見通せるほどどんどん視座が高くなっていった」と成長に目を細めていた。
2、3位に共通するのは身近で困っている人を手助けしたいという思いで開発に着手しながら、最終的にアジアなど海外市場でも通用する製品・サービスに仕上げたという点だ。今やビジネスは国内展開だけを考えていればいい時代ではない。それを高専生は当然のように知っている。
実行委員長の松尾豊氏(東京大学大学院教授)は「高専生は使える道具の一つとしてディープラーニングを自由に活用している。課題解決としっかり結びつけられれば無敵になる」と強い期待を示した。
19年のプレ大会、20年の第1回大会の参加チームの中には、すでに起業にこぎ着けた学生もいる。もの作りとプログラミングやAIを活用したシステム、ビジネスプランを競うDCONがスタートアップ育成の場になってきた。日本ディープラーニング協会は高専生向けの総額1億円の起業支援基金を創設し、強力に後押しする考えだ。
第3回DCONの開催も決まった。エントリーは21年夏の予定だ。準備期間はまだある。ビジネスの卵が世に出る瞬間をまた見ることができる。こう思うと来年が待ち遠しくて仕方がない。
(福島悠太)
[日経産業新聞2021年5月11日付]
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