中国の国際戦略を実証的に描いたものとして平川均ほか編著『一帯一路の政治経済学』(文眞堂・19年)がある。本書は米国主導から、中国主導の秩序を構築する上で基盤となる「一帯一路」をトータルに理解する上で役に立つ。「一帯一路」は習近平による「頂層設計」のように言われるが、実は様々な地域ですでに取り組まれていた輸送路や開発のプロジェクトをうまく活用し組み合わせながら、地域共同体につながる枠組みにしていこうとした構想である。「中国債務の罠(わな)」、当初予想ほどに成果が出ていないアジアインフラ投資銀行(AIIB)の現状など問題は浮かび上がっているが、アジア、欧州、中東、アフリカに連なる産業構造の大変動を引き起こしていくかもしれない。 

デジタル統治へ

最後に触れておきたいのは、ソ連・東欧社会主義体制の崩壊以後の新しい統治ガバナンスの模索である。まず社会主義、開発独裁の国々における民主化が注目された。しかし民主化は必ずしも安定した秩序を保証しないと考え、今日の中国では監視カメラや社会信用システムの導入などハイテクやデジタルの技術・システムを活用した新しい統治の構築が取り組まれている。これを紹介した注目すべき本が梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書・19年)である。ここでは共産党指導の監視社会と人々の功利主義的な幸福の保証がバーターされているのが窺(うかが)われる。民主化を通した秩序の安定を試みる台湾と対照的な中国の行方が注目される。

[日本経済新聞朝刊 2021年5月8日付]

中国 統治のジレンマ:中央・地方関係の変容と未完の再集権 (慶應義塾大学法学研究会叢書 90)

著者 : 磯部 靖
出版 : 慶應義塾大学出版会
価格 : 5,720 円(税込み)


幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

著者 : 梶谷 懐・高口 康太
出版 : NHK出版
価格 : 935 円(税込み)


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