中国共産党100年の曲折 中央集権から再分権化へ早稲田大学名誉教授 天児慧

中国の指導者たちは、民主化は安定した社会秩序を保証しないと考えてきた イラスト・よしおか じゅんいち
中国の指導者たちは、民主化は安定した社会秩序を保証しないと考えてきた イラスト・よしおか じゅんいち

ここ数年間の中国関係について出版された書物から、中国共産党100年史を概観してみよう。

久保亨ほか『現代中国の歴史 第2版』(東京大学出版会・19年)は、共産党史をより大きな枠組みで、すなわち第1版では少なかった香港・台湾を取り込み、現代中国の全時代をカバーしている。最初に「中華民国の誕生」を扱っているが、それは思想的にも制度的にも中華人民共和国に強く連動しており、現代中国の理解に重要である。

人民共和国の毛沢東時代では、元新華社通信記者・楊継縄の『毛沢東 大躍進秘録』(文芸春秋・12年)と『文化大革命五十年』(岩波書店・19年)が衝撃的作品である。前者は著者が全国を回って取材し、58年~62年の大躍進政策は3600万人の餓死者を生み出す「人類史上最悪の惨劇」だったと断じた。後者は「文革の勝利者は官僚集団、敗北者は毛沢東、造反派」とする時代のもう一つの悲劇を描いている。上述した久保亨ほかの本では、奪権闘争、反米反ソ外交の展開を描くと同時に、画一化していく社会の背後で、新たに形成された差別の構造が悲劇を増幅させたと指摘している。

固有のロジック

毛の死後、鄧小平が実権を握り革命から改革開放へと大転換を遂げる。この時代は経済近代化の優先が主要な潮流であったが、民主化を求める学生・市民による天安門事件も忘れられない。鄧小平時代は、統治の面では活発化し力をつけていく地方を軸に、集権から分権化に向かうという特徴があった。しかし磯部靖『中国 統治のジレンマ』(慶応義塾大学出版会・19年)によれば、江沢民・胡錦濤の時代は、金融・財政改革の必要から再集権化が見られたという。本書の興味深い指摘は、超集権主義者とみられる習近平のもとで、実は地方立法権の拡大、財政権限・行政権限の下放といった再分権化が進んだとの指摘である。

習近平時代の全般を扱(あつ)かったものとしては、林望『習近平の中国』(岩波新書・17年)がある。著者はジャーナリストとしての感性、行動力を遺憾なく発揮しながら、2010年頃から17年までに起こった政治・経済・外交などの重要事件や人物の動きを現場感覚で生き生きと描き出している。そして何よりも海洋進出、中国型民主主義の主張や、改革開放の問題点を中国人自身に中国のロジックで説明させることを心掛けている。

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