コロナ禍での経営、「跡取り娘」はどう立ち向かう

2021年版中小企業白書によると、経営者の高齢化や新型コロナウイルスの影響で、20年の廃業件数は過去最多となった。そんな中で注目されるのが女性の跡継ぎだ。事業承継は女性が経営者になるきっかけとして最も多い。思いがけず会社を継いで経営を立て直し、コロナ禍にも立ち向かう女性経営者を紹介する。

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現場への権限委譲生きる 東横イン社長/黒田麻衣子氏

国内外で326店舗のビジネスホテルを運営する東横イン(東京・大田)の社長に就任して約9年。訪日外国人の増加やビジネス需要で売上高を伸ばしてきたが、コロナショックで状況は一変した。

くろだ・まいこ 立教大院修了。2002年東横イン入社、新規ホテルの立ち上げを担当。出産・育児のため05年に退職。夫の転勤先のドイツに住む。08年に副社長として東横インに復帰、12年に社長就任。家族は夫と娘2人。

8割あった月の平均稼働率は一時2割台に。「ホテル従業員に、出勤を減らしてもらうのは心苦しかった」。それでも雇用調整助成金を活用し、賞与も継続して、従業員の収入減を10~15%に抑えるよう努めている。

昨年3月末、「医療従事者や都関係者の宿泊先として、もっとホテルを活用して」と都庁に連絡をしたところ、小池百合子都知事からじかに折り返しの電話があった。「コロナウイルス軽症者の宿泊療養先として協力してほしい」

「驚いたが、断る気持ちはなかった」と黒田さん。それまでも海外からの帰国者やダイヤモンド・プリンセスの下船者を受け入れていた。客室の清掃や一般客と宿泊エリアを分ける采配など、対応してきた経験の蓄積があった。

社長就任以降、支配人に各ホテル運営の権限を大幅に委譲してきたことも、コロナ禍という想定外の事態で役立った。支配人の9割超が女性だ。年1回、自ら面談し、育成に力を注いできた。療養先となることを決めたときも反対はなく、従業員への説得を引き受けてくれた。

支配人はホテルの収支管理やスタッフの採用はもちろん、自治体との連携など幅広い責任を持つ。地元とのネットワークも太い。「『受け入れの時期や設備の不具合への対応など、支配人が自ら判断してくれるので、色々なことが迅速に決められる』と都の人に言ってもらえた」

そもそも、今のキャリアは人生の想定外だった。大学院を卒業後、父・西田憲正氏が創業した東横インに就職したが、結婚し2005年に退職。専業主婦として子育てのまっただ中に、会社の不正改造や不法投棄問題が発覚した。

08年に西田氏が逮捕されたのを機に、急きょ副社長として会社を支えることに。「父は後継者を育てていなかった。会社がなくなってしまうと焦り、父に電話して『私にやらせてください』と伝えた」と振り返る。

会社に戻ると、退職当時100店舗に満たなかったホテル数は200を超していた。だが不祥事に加え、リーマン・ショックの影響もあり、社員の顔は暗い。支配人から「副社長は現場の大変さを分かっていない」と指摘されたことも。

支配人の声を丁寧に拾い、従業員の新規雇用の対策を立てたり、働き方改革を進めたりした。また創業者の娘として、役員や社員が直接言えない宿泊料金割り引きの提言を父である西田氏に持ちかけたりもした。地道に築いた本社内やホテル支配人との信頼関係が、今、生きている。

ビジネス・旅行などの宿泊需要は回復せず、苦しい時期が続く。だが「テレワークや仕事中の休憩など、地域の人にもホテルを活用してもらえるような、新たな施策を打ち出していく」と前を向く。

(聞き手は砂山絵理子)

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苦しいときはあえて挑戦 ダイヤ精機社長/諏訪貴子氏