社長になって市場万能論に疑問を抱くようになった。
とくら・まさかず 1950年兵庫県出身。東大経卒、住友化学工業(現住友化学)入社。経営企画などを経て2011年社長、19年から現職。経団連副会長を務めた。

社長に就いた当初は、市場原理主義や小さな政府といった新自由主義はすばらしいと考えていました。しかし、金融資本主義の行き過ぎや広がる格差の問題などを見て、効率性至上主義や株主価値一辺倒の経営で良いのか問題意識を持つようになりました。

そのころ手にとったのが数理経済学者の宇沢弘文さんを描いた『資本主義と闘った男』です。宇沢先生は、人は「ホモ・エコノミクス」として一様に経済合理性だけを追求するという前提の経済学からは公正な分配といった概念は出てこない、経済は社会性の見地に立つ必要があると説きます。

そこから導かれるのが社会的共通資本という考え方です。生態系や自然環境の維持、医療や教育などの社会制度は市場原理に委ねず、違う観点で構築・運営しなければならないと主張します。資本主義の否定ではありません。社会的共通資本も効率的な資源配分やイノベーションを生む市場制度の良さを利用すればいいのです。

宇沢先生がこうした考えを唱えたのも50年前です。今のESG(環境・社会・企業統治)や、国連の定める持続可能な開発目標(SDGs)の考え方にも通じます。

宇沢先生は私の東大在学中にも教鞭(きょうべん)をとっておられました。私は根岸隆先生のゼミに入り、ついていくのが精いっぱいで、宇沢先生の授業は受けませんでしたが、学内で立派な体格の先生を見かけました。

宇宙や生命の本にひかれる。

少年時代の夢は科学者になることでした。その夢を諦めて文系に進んだので、今でも宇宙や生命に関する本を見つけると飛びついてしまいます。

『エレガントな宇宙』や『重力とは何か』もそうして読みました。重力とは何か、時間とは何か、相対性理論から素粒子、超弦理論の話になる。読む度に宇宙や超ミクロの世界に思いを馳(は)せ、現実の世界を忘れて気分転換できる点では漫画と同じです。

(聞き手は編集委員 松尾博文)

[日本経済新聞朝刊2021年5月1日付]

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