支援事業を始めたのは「研究だけでなく社会に役立てて」と坂東真理子理事長・総長に背中を押されたからだ。西村社長は「自分には何もスキルがないと考える女性は少なくない。でも数十年も働けば何かしら得意なこと、好きなことはある」と話す。
子育て負担から解放 仕事への意欲高まる
均等法第1世代の女性らの働く意欲は高い。電通が19年に正規雇用で働く55~59歳の女性200人に調査したところ「定年まで働きたい・働く予定」と答えた人は69%にのぼった。そのうち67.4%が定年後も働く・働きたいと考えている。理由としては「将来お金がないと不安だから」が55.9%と最多だが、「社会と関わっていたい」(45.2%)、「働くこと/仕事が好き」(26.9%)などの回答も多い。
子育ての負担から解放され、仕事への意欲がより増しているという側面もある。柿田京子さん(55)もそんな一人だ。アートプロジェクトの企画・運営を手掛ける「イーチトーン」(東京・豊島)を1月に立ち上げた。第1弾として提案するのは、虹彩データをデザインしたバーチャル墓地だ。
大学卒業後はNTTに就職。留学した後に3人の娘を育てながらアクセンチュアや日産自動車で人事制度の構築に携わった。起業支援も手掛けてきたことからいつかは自分も起業したいと思うようになった。「娘が全員成人したことで一気にアクセルを踏み込めるようになった」と話す。
21世紀職業財団が19年、管理職経験のない総合職の50代男女に聞いたところ、職業生活の中で最もモチベーションが高かったときと比べ「現在の方が高い・同程度」と回答したのは、男性の27.6%に対して女性は43.3%にのぼった。
70歳までの雇用延長が企業の努力義務となったことで、今後は同じ会社で働き続ける人も増えると予想される。山谷真名上席主任研究員は「女性は50代から再び成長したいという気持ちが強くなる傾向がある。企業は一律に年齢で区切るのではなく、何歳でもやる気のある人に活躍の場を提供することで、もっと人材を活用できる」と指摘する。
人生100年時代。第二の人生を早い段階から準備することは大切だ。ネクストストーリーの西村美奈子社長は「50歳になったらマインドチェンジ。まずは思ったことを何でもメモしよう」と提案する。辻田淑乃さんは大学院で学び「海外の人は早い段階から今後のキャリアを考えている」ことに驚いたという。
厚生労働省の令和元年簡易生命表によれば、女性は男性より6年以上長く生きる。「セカンドキャリアは年上や同年代ではなく、若い人と組んだ方がいい」という柿田京子さんのアドバイスにも説得力があった。収入も軽視してはいけない。第二の人生では「ライフワーク(生涯続けたい)」「ライスワーク(生活のため)」「ライクワーク(好きなこと)」のバランスが大切と学んだ。
(編集委員 中村奈都子)
[日本経済新聞朝刊2021年4月26日付]