やまだ・としゆき 1962年京都市生まれ。大阪学院大を卒業、アパレル会社を経て実家で就農。2002年に「こと京都」を設立し、17年から日本農業法人協会会長。

この本のキーワードの一つである「慎独」は、中国の古典『大学』に由来する言葉です。誰かが見ているから頑張るのではなく、常に天が見ているという意識で行動すべきだという意味でしょうか。それをきちんとできていないようでは、自分も社員を育てることはできないと気づきました。

手に取ってみる本は、どこかで仕事に関係しているものが中心です。自己啓発本もいろいろ読んでみました。できるだけ多く読もうと思い、速読法の講習に行きました。まず縦に一行をぱっと目に入れ、そのまま視線を横に動かし、スキャンするようにページ全体を見る。新書の中身を30~40分程度で把握できるようになりました。ただここで紹介した本は、そういう読み方をしたものではありません。

自分の感受性を育んでくれたという意味では、漫画も忘れるわけにはいきません。いまも「週刊少年ジャンプ」は、毎週月曜日にコンビニに買いに行きます。社会人になってから一番熱中したのは『DEATH NOTE』です。登場人物どうしが裏の裏をかき合うストーリーの巧みさ。よくぞここまで考えたものだと感心しました。

2015年までの3年間、九大の修士課程で農業経営を学んだ。

会社を経営しながら大学院に通ったのは、アカデミックな知識を生かしたいと思ったからです。指導は厳しくて、論文を書くためにたくさんの資料を読み込む必要がありました。ただ夜は酒を飲みたかったので、毎朝4時に起きて読むようにしました。

論文は難しい書き方をしたものばかり。でもよく読んでみると、経営のヒントになるものもあることがわかりました。大量の論文と向き合ったこの経験で、本を読む時間が変わりました。それまでは新幹線での移動中などに読むことが多かったのですが、早朝に読書する習慣がつきました。

その読書のリズムを、いい意味で崩してくれる本と出合いました。村上春樹さんの『1Q84』です。いつものように朝ページをめくり始めたら止まらなくなり、仕事が終わった後、夜も読むのを抑えられなくなりました。酒を飲むのを控えたくなるほどの面白さ。一気に読み進めました。

小説は完結しましたが、物語の先が気になって仕方がありません。登場人物の「青豆さん」はどこでどうしているのかなあ。朝の読書を続けつつ、そんなことをふと考えます。

(聞き手は編集委員 吉田忠則)

[日本経済新聞朝刊2021年4月17日付]