食欲誘う黄色、辛みツーン 熊本の郷土料理、辛子蓮根

2021/4/15
森からし蓮根ではチップスとしょうゆの詰め合わせも販売(熊本市)
森からし蓮根ではチップスとしょうゆの詰め合わせも販売(熊本市)

鼻にツーンと抜ける辛みが特徴の辛子蓮根(れんこん)。江戸時代に藩主の滋養強壮のために開発され、いまでは都市部の居酒屋でも見かける熊本県の郷土料理だ。飲食店や小売店だけでなくインターネット通販でも購入でき、最近は自宅で手作りできるセット商品も登場した。

ゆでた蓮根の穴に辛子を混ぜた麦味噌を入れ、衣を付けて揚げた辛子蓮根は鮮やかな黄色が食欲をそそる。衣は小麦粉やソラマメ粉にウコンなどを混ぜて色を出している。

辛みを生み出す黄色い辛子は、カラシナというアブラナ科の植物の種子を粉にして練ったもの。県辛子蓮根協同組合で理事長を務める高見商店の高見治社長によると、国内で消費する辛子のカラシナは、ほとんどがカナダ産だという。輪切りにした辛子蓮根の一切れをかみしめた瞬間、辛みが鼻を突き上げたが、すぐにシャキシャキの蓮根の風味が口の中に広がった。要冷蔵で日持ちは1週間ほどだが早めに食べることが望ましい。

高見商店の工場で辛子蓮根をつくる従業員(熊本県八代市)

新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店での需要が減少したため、同店では2020年10月から自宅でつくれるキットのネット販売を始めた。辛子味噌を詰めた蓮根と天ぷらの衣に使う専用の粉が入っていて、説明書にしたがってつくれば約10分で完成する。記者も自宅で試したが、蓮根の水分をしっかりふき取ることと、揚げる温度に気をつければ、お店に負けない味が再現できた。

店頭で商品を販売する村上カラシレンコン店(熊本市)

辛みの強さや風味で店の個性が生まれる。村上カラシレンコン店では柔らかな辛さを求め、マスタードをベースにした辛子を使って違いを出している。同店の常連客は高齢者が多いとあって、かむ力が弱くなった人でも食べやすい「からし蓮根コロッケ」を考案した。すりおろした蓮根に辛子味噌を混ぜ、形を整えてあげたものだが、辛みが弱まるため子供でも食べやすいという。コロッケは通販でも取り扱っている。

一方で特徴の強い辛みは訪日外国人も含め、苦手な人は少なくない。「辛みを和らげたいならマヨネーズやゴマドレッシングと一緒に食べるといいですよ」と教えてくれたのは、森からし蓮根の森久一郎副社長だ。特にマヨネーズは蓮根の歯応えと麦味噌の風味はそのままで辛みだけマイルドになるという。同店の商品は全国観光土産品連盟が主催する20年度の審査会で観光庁長官賞を受賞。大手百貨店でも販売され、おやつ感覚で食べられる「森からし蓮根風味チップス」も人気がある。

<マメ知識>藩主の滋養強壮に開発
熊本で辛子蓮根が生まれたのは江戸時代、病弱だった藩主、細川忠利のために開発されたとされる。同県は蓮根の収穫量が全国6位(2019年)だが、県内の主要な製造会社は佐賀県や徳島県のほか、時期によっては中国産も使っている。
1984年に発生した大規模な食中毒は今でも業界に重くのしかかっている。問題発生直後に県内に辛子蓮根協同組合を設立した。安心・安全への意識は高く、森からし蓮根では熊本市の工場の機械を3日に1回の頻度ですべて消毒しているという。

(熊本支局長 石原秀樹)

[日本経済新聞夕刊2021年4月15日付]