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東西関係は冷戦後最悪の状況にあり、核行使紛争が起きるおそれすらある イラスト・よしおか じゅんいち

東西関係は冷戦後最悪の状況にあり、核行使紛争が起きるおそれすらある イラスト・よしおか じゅんいち

バイデン新大統領がプーチン大統領を殺人者とよんだことは国際世論を驚かせた。歴代大統領が試みた米ロ関係リセットへの期待は途絶えたかに見える。

しかしそのプーチン政治を理解するのは容易でない。武田善憲の『ロシアの論理』(中公新書、2010年)は移行期の復活した大国の基本的論点を解いて簡便だ。民主化と市場経済への移行によって社会主義国が普通の国になるという彼の予測はなぜ実らなかったか。

エリツィン政権による民営化と腐敗、オリガルフ(政商)の独占に庶民は幻滅し、新しい秩序と指導者を求めた。後継者プーチンは国家の復活を提唱、政商の一部を海外に放逐、政経分離で国内を安定させた。

中村逸郎の『帝政民主主義国家ロシア』(岩波書店、05年)は草の根世論を定点観測し、プーチン人気の高さにむしろ「良きツァーリ(帝)」という慈父的な権力観の復活を見た。エネルギー価格高騰によって給与や年金も回りだした。ロシアから見ればクリミア半島を「取り戻した」愛国主義も寄与する。

任期の壁を回避

中村の言う権威への依存心理を利用しながらプーチンはエネルギー利害をめぐり政敵である一部政商との紛争に勝った。欧米からは批判されたがソフト権威主義というべき国家重視の結果、徴税をはじめ地方制度、法制、政党や選挙など「国のかたち」が整いはじめたことを武田は制度論の観点から分析する。

なかでも大統領任期という壁を若手のメドベージェフとのタンデム(双頭支配)で回避、20年でロシアが豊かになる政治経済計画を進めた。ロシアの政治は経済による季節変動があり、また権力と所有とが結びついているため改革には時間も重要だ。

プーチンのような情報機関出身者が権力についたのは米国の政策的過誤、とくに北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が絡んだ。1996年民主党クリントン政権は専門家の慎重論を無視した。自己の再選のための東欧移民票という米国の内政要因もあった。さらにこれを提唱した米政治学者ブレジンスキーは小泉悠が『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、19年)で指摘するように、ウクライナ系の地政学論者だった。

こうしてウクライナを挟んでの復活した大国ロシアと超大国米国との勢力圏争いにつながった。しかも大統領選挙ごとにオレンジ革命(04年)、ジョージア紛争(08年)、クリミア併合(14年)などのように危機が周期的に生じた。

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