川崎ののらぼう菜 春告げるやわらか食感、おひたしで

「幸島」は豚バラ肉で巻くなど様々なのらぼう菜を使った料理を提供する
「幸島」は豚バラ肉で巻くなど様々なのらぼう菜を使った料理を提供する

都市農業が盛んな川崎市に春を告げる伝統野菜が「のらぼう菜」だ。栄養価が高く、甘みのあるやわらかな食感が持ち味で、市北部では800年ほど前から栽培されているという。収穫期の3月から4月にかけての期間限定で、市内の飲食店にはのらぼう菜を使った多彩な料理がメニューにのぼる。

のらぼう菜は市北部の多摩区、麻生区で約150軒の農家が栽培し、春先から成長した葉や茎を手で折り取りながら収穫する。生育力が強く、1つの株から3回ほど摘み取ることができる。「病害虫がつきにくいので、栽培するのに手間がかからない」(生産者の田中謙次さん)という。

同じアブラナ科の菜の花よりも苦みが少なく、アミノ酸、糖分を多く含むので葉も茎も味が濃い。ビタミンA、Cのほか、鉄分、食物繊維が豊富だ。ただ、収穫後はしおれやすいため、農家の直売所などで販売されるだけで、市場にはほとんど出回らない。市内の飲食店では農家から直接仕入れ、のらぼう菜が主役の料理を提供している。

おひたしで食べるのが定番だが、てんぷらなど油との相性も良い。和食店「幸島」の笹間美香さんは、5年ほど前から豚バラ肉で巻いたり、炒めものにしたりといくつものメニューを考案してきた。笹間さんは「素材の持ち味を生かすため、2分弱が最適のゆで時間。のらぼう菜と出合って料理の幅が広がった」と話す。

ベーグルカンパニーは生ののらぼう菜を使ったサンドイッチを考案した

のらぼう菜は生のまま食べると、茎の甘みをより強く感じる。「ベーグルカンパニー」はベーグルに生ののらぼう菜をはさんだサンドイッチを販売している。初めはベーグルの生地にのらぼう菜を練り込んでみたが、味が控えめなので、どうしても小麦粉の味に負けてしまう。そこで発想を転換し、生地にクルミ味噌やカレーなどを練り込み、味をつけたベーグルを焼き上げた。のらぼう菜には塩とオリーブオイルで軽く味付けをしただけで、甘みに加えて歯応えの良さも楽しめる。

「ムビリンゴ」のパスタ(左)とカレー

カレー専門店「ムビリンゴ」ではのらぼう菜を使ったカレー、パスタのほか、炒めもの、スープなどを組み合わせた定食が人気。のらぼう菜は新鮮なうちにペーストにして使う。素材本来のうまみを損なわないようスパイスは控えめだ。

どの料理にも春の息吹が漂い、食べ進むうちにすがすがしい気持ちになってくる。

<マメ知識>カステラやキムチにも
鎌倉時代、市北部で栽培が始まったとされるのらぼう菜は耐寒性に優れ、江戸時代には飢饉(ききん)の際に人々を救った記録が残る。種から油を採ることができるため、灯明などの燃料にも使われていた。
前年の8月下旬ごろから9月上旬までの間に播種(はしゅ)して苗を畑に植え付け、2月末から4月に収穫する。現在、川崎市だけでなく、東京・西多摩地方、埼玉県飯能市などでも栽培されている。川崎市内ではのらぼう菜を練り込んだカステラやキムチといった加工品も販売されている。

(川崎支局長 名波彰人)

[日本経済新聞夕刊2021年4月8日付]