だからこそ今、ゼロから神山高専を立ち上げる意義がある。今日的な課題と向き合い新しい高専像を描くのに白地のキャンパスはうってつけ。「次世代に向けて高専が生き残っていくための実験台」(大蔵)に違いない。

高専文化を残しながら次世代の高専を創る。

寺田は自身の起業経験に照らして高専設立のハードルが「スタートアップよりもかなり難易度が高い」と正直、認める。テクノロジー×デザイン×起業家精神というコンセプトをどうカリキュラムに落とし込むか。今の高専に何が物足りないのか。そして10代後半の可能性を大いに秘めているゴールデンエイジたちをどのように成長させるか。そこに尽きる。

だが日本の10代後半の若者への過度な期待は禁物だ。日本財団が実施した18歳意識調査(19年)で「自分で国や社会を変えられると思う」「自分の国に解決したい社会課題がある」といった自分自身についての6つの質問すべてで調査対象国(9カ国)中、日本は「はい」と答える割合が最も低かった。自分という存在をちゃんと見つめていない証左といえる。

地域の課題と向き合う

神山高専が育てようとする学生像は「未来の日本で、自ら課題を発見・解決し、社会に変化を生み出すことができる人材」としている。結果として起業家を社会に送り出す。

そのためにまず、倫理、哲学、心理といった「HEART(心)」の学びを通底にした精神性、マインドフルネスを重視する。瞑想(めいそう)など自分を見つめるカリキュラムを作る。小学校や中学校の進路は保護者の意図に大きく左右されるが、中学卒業後の進路は「意志の発動がある」(寺田)。「学生が求める心、姿勢をどう育むか。教えるだけでなく、育むのがとても大事」(山川)だからだ。ここは従来の高専教育とは大きな違いがある。

そしてゴールデンエイジは「HEAD(頭)」を使い抽象スキルを、「HANDS(手)」を動かして具体スキルを身につける。神山町という山間地に高専開校を目指すのは、高齢化や1次産業が直面する地域に密着した社会課題と向き合えるからに違いない。「FOOT(足)」による気づき、学びは高専生ならではの「モノを作って」課題を解決する人材の輩出ができる環境となるからだ。

追い風なのは神山町は町を挙げて10年以上前からネット環境の整備を進めており、寺田が起業したSansanだけでなく、約10のネット系のサテライトオフィスがある。移住による人口の社会増もある。「神山の奇跡」と言われるゆえんだ。

従来の理科系の高専教育への深い理解に加えて、テクノロジー教育、社会実装には欠かせないUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)に関するデザイン教育を差し込んでいく。それができれば起業するデザインエンジニアが生まれるはずだ。

神山高専のビジョン、「神山から未来のシリコンバレーを生み出す」。今、開校に向けた異才の3人が集ったことで「一気にドライブがかかった」(寺田)。2021年10月に文科省に「学校法人設立並びに学校設置の認可」などを申請する。

校舎などとして使用する神山中学校の校訓は「やり遂げる」。それは寺田らに引き継がれる。

=敬称略

(編集委員 田中陽)

[日経産業新聞2021年4月8日付]

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