28歳の時、博士課程を休学し、国際協力事業団(現国際協力機構、JICA)の専門員としてアフリカに行く。
はせがわ・まりこ 1952年東京生まれ。理学博士。専門は行動生態学と自然分類学。イェール大客員准教授や早大教授を歴任し、2017年から現職。

歩いてキャンプをしながら野生動物を見る国立公園を日本の援助で造る計画に参加しました。場所はタンザニアのタンガニーカ湖のほとり。私からするとまさに「前人未踏」の地です。

文化の全く違う、しかも年上の人を使ってプロジェクトを遂行しなければなりません。日本からは予定通り進めよとプレッシャーがかかる。くじけそうなとき、心の支えになったのが、「アラビアのロレンス」ことT・E・ロレンスが書いた『知恵の七柱』です。

第1次大戦下、ロレンスはアラブ軍を率いて立ち上がる。が、命じても部下たちは思うようには動いてくれません。英国の国益とアラブの国益との板挟みにあいながら、自分がちゃんとやり遂げねばならぬという強い意志がとても共感でき、参考になりました。

研究職のポストがなかった。

東大理学部の教授から「女は東大で教授になれない」と言われたことがあります。研究を続けようと他大学でポストを探しましたが見つかりません。

1990年から専修大学法学部で科学を教えることが決まり、最初に手にした本がシモーヌ・ヴェーユの『ヴェーユの哲学講義』。哲学を大学で教えなければならない理由についてのメッセージが強烈でした。若い頃に哲学を学ぶのは、当たり前のことに疑問を持ち、批判精神を養うためである。哲学を科学に置き換えられます。科学の知識ではなく、この思考法を身につけてもらおうと決めました。

学生に科学リテラシーがないと文句を言いながら、自分に社会リテラシーがないことに気づきました。『文明の衝突』(サミュエル・ハンチントン著)や『レクサスとオリーブの木』(トーマス・フリードマン著)などを読むようになり、読書の幅が広がりました。

本を読むと想像する力のおかげでいくつもの人生を経験できます。若い人にはぜひ読書をしてもらいたいです。

(聞き手は編集委員 矢野寿彦)

[日本経済新聞朝刊2021年4月3日付]

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