甘辛煮汁でゆでる郷土の味 滋賀・長浜の焼鯖そうめん

翼果楼は大きな波のように束を盛り付ける
翼果楼は大きな波のように束を盛り付ける

琵琶湖の北に位置する滋賀県長浜市周辺に「焼鯖(さば)そうめん」と呼ばれる郷土食がある。焼いたサバをしょうゆやみりんで甘辛く煮付け、その煮汁でそうめんをゆでる。農繁期やハレの日の食事として、各家庭に受け継がれたが、今や長浜観光に欠かせないご当地グルメに育った。

寂れた商店街を年200万人が訪れる観光地に再生した長浜の黒壁ガラス館。その近くに焼鯖そうめんを観光客に初めて提供した翼果楼(よかろう、長浜市)がある。

女将の辻郁子さんは「福井県の小浜産の焼鯖を使い、丁寧に脂を除きながら炊き、サバのうまみを引き出す」という。奈良県特産の三輪そうめんで3年寝かせた「おおひね」の極細を使う。端を縛ったままゆで、束が大きな波を表すように盛り付ける。

翼果楼の開店は1990年。黒壁ガラス館開業の半年後だった。「観光地にはその土地ならではの郷土料理の店が必要」といわれ、地元の食堂の娘さんだった辻さんが女将に抜擢された。「当初はこんな家庭料理でお金が取れるのかと心配した」というが、観光地のにぎわいが増すとともに味も洗練されていった。

成駒家はあっさり味に

長浜市中心部で焼鯖そうめんを食べられる店も増え、味のバリエーションも出てきた。成駒家(長浜市)はそうめんをお湯でゆで、昆布やかつおだしの汁と合わせ、しょうゆなどで炊いた焼鯖を載せるようにアレンジした。4代目店主の堀部駒夫さんは「さらさら食べられるよう、あっさりと仕上げた」と話す。

旅館の浜湖月(長浜市)は宿泊客の夕食のほか、レストランでも提供している。焼鯖そうめんに、季節によってビワマスのお造りなどが付くぜいたくな御膳だ。社長の岸本一郎さんは「地域に受け継がれた様々な食材を季節感とともに味わってほしい」という。

浜湖月では季節によってビワマスなどの魚介が主役になる

内陸の長浜でサバとそうめんはどう出合ったのか。郷土料理研究家の肥田文子さんによると、湖北地方には「五月(さつき)見舞い」といって、農家などに嫁いだ娘に実家の親が焼鯖を届ける風習があったという。若狭湾でとれたサバは塩漬けされて京都に運ばれた。一部は保存のために竹串に刺して素焼きにされ、名古屋方面にも向かった。その通り道の長浜にサバの食文化が根付いた。

そうめんは中元でやりとりする風習があり、家庭に常備されていた。「湖北出身の大名、脇坂氏が江戸時代に龍野(兵庫県)を領有した縁で、播州そうめんがもたらされたのではないか」(浜湖月の岸本さん)との説もある。

<マメ知識>インスタントも発売
長浜の黒壁スクエアは「黒壁銀行」と呼ばれた明治時代の建物を中心に、土産店や飲食店など20店余りで構成する。新型コロナウイルスの影響で観光客が減るなか、焼鯖そうめんを手軽に食べてもらおうと昨年、インスタント商品「長浜つるつる焼鯖そうめん」(長浜萬商)が発売された。郷土料理研究家の肥田文子さんが味を監修した。地元の戦国武将、浅井長政の3姉妹にちなんで分量の多い順に「茶々」「お初」「江」の3品目がある。ネットで購入できる。翼果楼でも持ち帰りが増えている。

(大津支局長 木下修臣)

[日本経済新聞夕刊2021年4月1日付]