女性議員を増やす切り札 クオータ制導入の課題は

2021/3/29
超党派の議員連盟は政党が目標を設定することを義務付ける法改正を検討している(3月9日、東京・千代田)
超党派の議員連盟は政党が目標を設定することを義務付ける法改正を検討している(3月9日、東京・千代田)

今年は衆院選が行われる。日本では衆院の女性議員の割合は1割に満たない。政治の場に女性をもっと増やすための議論でテーマとなるのが、議席や候補の一定比率以上を女性に割り振る「クオータ制」だ。海外では導入によって女性を増やした国が多い。日本で導入する場合は何が課題となるか。

クオータ制はどちらかの性別が一定比率を下回らないように決める。手法は女性に(1)議席の一定数を割り当てる(2)候補者の一定割合を割り当てる(3)政党が自発的に候補者の一定割合を割り当てる――の3種類ある。(1)と(2)は憲法か法律で定め、(3)は党規則などで決める。国ごとに方法は違うが、約130カ国・地域が導入している。

導入で女性参画が急速に進んだ国も多い。内閣府によると、メキシコは2002年に政党候補者の30%を女性とすることを義務化し、08年に40%、14年に50%と比率を引き上げた。政党助成金の3%は女性の能力強化に充てる。この結果、下院議員の女性比率は1997年の14%から18年に48%と大幅に伸びた。

フランスは80年代にクオータ制を検討したが、違憲判決が下された。その後憲法を改正し、00年に政党に男女同数の候補者擁立を義務づけるパリテ法を制定した。下院選で男女の候補の差に応じて政党助成金を減額する。上院選は比例代表の名簿に候補者を男女交互に並べる。93年に6%だった下院の女性割合は40%まで上昇した。

上智大学の三浦まり教授は「80年代はどこの国も差がなかったが、現在は大きな差がある。法律でクオータ制を入れた国は急激に伸び、政党の目標にとどまる国は緩やかだ」と話す。

日本の衆院議員の女性割合(9.9%)は先進国で最低水準だ。列国議会同盟(IPU)によると、世界193カ国の国会(二院制では下院に相当する議会)のなかで166位に沈む。有権者の52%は女性だが、17年衆院選の候補者の女性割合は18%にすぎない。

日本でクオータ制実現の第一歩といえるのが、超党派の議員連盟による議員立法で18年に施行した「政治分野の男女共同参画推進法」だ。国会、地方議会の選挙で男女の候補者数をできるだけ均等にするよう政党に努力を求めている。

議連会長の中川正春衆院議員(立憲民主)は「女性が自分の力で当選するのが理想だが今はハンディがある。30%を超えればロールモデルができて自然に増えるようになる」と説明する。

議連は今国会での推進法改正を目指す。今は候補者数の目標設定は自主的な取り組みとされ、努力義務だ。改正案のたたき台では目標の定め方は政党に委ねるものの設定は義務とする方針。事務局長の矢田稚子参院議員(国民民主)は「現案でもクオータ制実現にはほど遠いが、少しでも前進させたい」と話す。

クオータ制実現には乗り越えるべき課題が多い。与党を中心に慎重論が根強く、憲法上の平等の観点からの議論もある。そもそも女性議員を増やそうという社会の機運が十分高まっていない、との声もある。

自民党の稲田朋美衆院議員は「ひとり親支援や貧困の問題などは男性社会では見落とされがちだが、選挙は現職優先。県連にも女性を選ぼうという意識は薄い」とみる。クオータ制の議論が進まないのは「政権を脅かす状況もなく、『変わらなくては』となりにくいため」と説明する。

だが、女性の政治参画が遅れた状況を放置してはおけない。京都産業大学の伊藤公雄教授(男性学)は「女性の政治参画は社会を元気にするためでもある。女性議員の極端な少なさは国際社会の中で格好悪い状況であることを、男性も意識すべきだ」と話す。

議論の前に政治家になりたい女性を増やす取り組みを進めることも必要だ。日本財団が20年11月、女性1万人に聞いた調査によると、政治家になりたいと思う人は8%にとどまった。若手女性議員グループの代表を務める本目さよ東京都台東区議は「議会が夜遅くまで続くと子育て中の議員は厳しい。日程を増やす代わりに早く終えるなどの改革が求められる」と話す。

元大津市長の越直美弁護士は「子育てや介護の負担に加え、リーダーシップは男性がとるものという世間の価値観が強い」と指摘。「政党助成金の数%を女性擁立のために使うなどのサポートが必要だ」と語る。

海外ではクオータ制導入後、新たな課題が浮上する例もある。フランス事情に詳しい専修大学の村上彩佳専任講師によると、パリテ法の制定後も政党が地盤の強い選挙区に男性を立てるなどの抜け道が問題になった。「政党助成金の減額のペナルティーを強化するなどトライ・アンド・エラーの繰り返しだ」と解説する。

改革が遅れていた県議会選挙は13年に男女ペアに投票する仕組みまで導入した。村上氏は「法律が有権者の意識を変え、さらに強い取り組みが求められるようになっている」と話す。

対策講じなければ世界との差は広がる
21年度からの第5次男女共同参画基本計画は衆・参院、統一地方選の候補者の女性割合を25年に35%とする目標だ。地方の現状も厳しく、都道府県議会では女性議員は11%にすぎない。稲田議員はクオータ制に反対の立場だったが、最近考えが少し変わった。「衆院の女性議員はむしろ15年前より減った。このままでは進まない」との危機感がある。
「女性にゲタを履かせるのは望ましくない」との声は根強い。一方で三浦教授は「クオータ制は数によって環境改善を促し、連鎖反応を起こすのに効果的だ」と強調する。越弁護士は「得票率が低い女性を通すのは市民の判断をゆがめるが、今は立候補までの過程に男性優位がある」と話す。何か手段を講じなければ世界との差は開くばかりだ。
(山岡亮)

[日本経済新聞朝刊2021年3月29日付]