理系から外務省に入りました。

幼少期に海外で過ごし、ピアノも習っていたので、もともと西洋文化に関心を寄せていました。吉田健一の『ヨオロツパの世紀末』は、「ヨオロツパ」と表記されている題名にひかれて読み始め、独特の文体と深い洞察に魅了されました。世紀末イコール退廃という短絡的な見方を正してくれます。

塩野七生さんの『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』もまず題名にひかれました。颯爽(さっそう)としたスタイルに感銘して塩野ファンとなり、作品が出るたびに読んで来ました。イタリア大使を務めたことで、ご本人とお会いする機会に恵まれ、感激でした。

外務省での在外研修は英国でした。留学先での専攻は経済学でしたが、学生寮では最新の本や劇などがよく話題になりました。本を読む習慣がつき、仕事との関係の有無にかかわらず、多様な読書を楽しんできています。

英文学では、ジェーン・オースティン(『高慢と偏見』など)やジョン・ル・カレ(『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』など)を愛読しています。オースティンの作品は、モーツァルトの音楽をほうふつとさせる優雅でウイットに満ちた文体で、読むたびに新しい発見があります。英秘密情報部(MI6)に実際に勤めたことがあるル・カレの作品は、過ちを犯す人間の生々しい描写が印象的です。

最近読んで、紹介したい本は。

ドナルド・キーンさんとは、イタリア在勤中にお会いし、オペラなどのお話をうかがう機会がありました。『明治天皇』は大著ですが、豊富な内容が読みやすい明晰(めいせき)な文体で書かれています。希代の文章家です。

イタリアの女性作家、エレナ・フェッランテにも注目しています。出版社に原稿は送られてくるが、公の場には現れない謎の人。『ナポリの物語』はふたりの女性の長年の交友を描いた作品です。英語の翻訳が素晴らしく、イタリア以上に英語圏で大人気。妻に薦められて一気に全4巻読みました。

最後に、日本と外国の交流に興味がある若い人にぜひ手に取ってもらいたい本として『国際文化交流を実践する』を紹介します。世界各地での文化交流の現場の舞台裏をのぞけます。

(聞き手は編集委員 大石格)

[日本経済新聞朝刊2021年3月20日付]

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