森氏の女性蔑視発言の波紋 若者の疑問に応えられるか
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言は、外国メディアに大きく報道された。時代錯誤な発言だと世界中で厳しく批判され、結局は会長交代という展開。やはり外圧がなければ日本は変われないのであろうか。
実は今回の一件では、今までにない動きも見られた。森氏の発言が報道された直後、音声SNS(交流サイト)「クラブハウス」ではこの問題をテーマに多くの部屋が立ち上がった。問題意識を共有した20代の若者たちは再発防止を求めて早速オンライン署名を始め、2週間足らずで15万筆以上を集めた。
同時に国内外で活躍する著名な日本人が連携し、性差別を含む差別をなくし多様性のある社会をつくる共同声明を発表。東京五輪のスポンサー企業の中からも、森氏の発言に異議を唱える声が上がった。
社会変革のスピードが遅いといわれる日本だが、ジェンダー平等に関しては急速に改善した部分もある。女性の就業率は近年急増し、今では経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均を上回るレベルに達している。政府や企業の積極的な女性活躍推進策は確実に成果を出しているが、一方で女性就業者のうち指導的立場に立つ人の割合が低いままという問題は残る。
これについても変化は訪れるであろう。デジタル情報社会の発達により、組織やそのリーダーの言動が瞬時にネット上で拡散し、それを受けた国民がSNSを通してマスとしての反応を示せるようになった。森氏の件で見られた情報拡散と世論の反応、行動のスピードはデジタル社会以前には考えられなかった。
若い世代を含め国民の意識は確実に進化している。現在企業に勤めるのはほとんどが男女雇用機会均等法施行後に社会人となった人たちだ。今の社会経済を動かしている多くの人々にとって、森氏の発言は理不尽であり、変化を望むのは当然の流れであろう。
前述のオンライン署名の発起人となった大学生。彼女にとっては、森氏の発言に異議を唱えた企業でさえ幹部層の女性比率が低いことが腑(ふ)に落ちない。そんな彼女のつぶやきは、インターネットで瞬時に世界に広まる。優秀な人材獲得は企業にとって命綱だ。若い世代の考えに反応できない企業は、外圧ではなく、内圧で淘汰される時代が近づいている。
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。著書に『武器としての人口減社会』がある。
[日本経済新聞朝刊2021年3月22日付]
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