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スマレジの阪本将史さん

スマレジの阪本将史さん

売り場で使うレジ用アプリ大手のスマレジが事業を拡大している。登録店舗は2月時点で約9万4千と、前年同月から14%増えた。大阪本社で営業部隊を率いる営業部主任、阪本将史さん(34)は2020年度の売り上げが部内でトップ。成功の秘訣は「目先の利益を追わず、全体最適を目指すことだ」と語る。

大阪市中心部にある築50年近いオフィスビル。3階に上ると白を基調とした真新しい空間にレジ端末や自動釣り銭機が並ぶ。18年にスマレジが開いたショールームだ。

阪本さんは、訪れる小売店や飲食店の担当者を迎え、1日最多で4件の商談をこなす。アプリや周辺機器の使い方を紹介しつつ、相手の予算や店の大きさに合わせて提案するプランを変えていく。

スマレジはタブレット端末などをレジとして使える専用アプリが主力商材だ。営業はショールームを訪れる顧客に売り込む「待ち構え型」が基本になる。

スマレジはタブレット端末をレジとして使えるアプリを提供

「店で扱う品物は何点ほどありますか」「購入ポイントの管理をしていますか」。阪本さんは相手の関心やニーズを細かくくみ取り、最適なアプリのプランと機器の組み合わせを提案する。業種や予算、訪れたきっかけなど、事前に聞き取った情報を基に、やりとりのイメージをあらかじめ膨らませておくという。

20年には全国に約90店舗を展開する小売りチェーンからの大型受注をまとめた。19年11月の最初の顔合わせから約半年で、全店にシステムと釣り銭機を導入した。

ただ商談の過程では新型コロナウイルス禍という想定外の事態に遭遇。部品の調達に支障が出て釣り銭機の納入が遅れかけたり、先方の従業員を集めてシステムの使い方を説明する研修が開けなくなったりと困難が続いた。

そんな中で阪本さんが意識したのは「顧客からの信頼ポイントをためること」。メールでの問い合わせや要望には即座に答える。価格交渉や細かい機能の質問など回答に時間がかかる内容でも、まずは「確認します」と返信を忘れない。素早い対応で顧客の不安軽減に努めた。最後は顧客から「無事に導入できたのは阪本さんのおかげ」とねぎらいの言葉をもらった。

レジアプリはレジの専用端末を使うより導入費用が安くすみ、資金が限られる個人経営の店舗などで導入が進んでいる。リクルートホールディングスの「Airレジ(エアレジ)」やUSENの「Uレジ」などが競合だ。スマレジは在庫管理や棚卸しといった小売店の業務に対応した機能の多さを強みにしている。

「単機能を求めるお客には競合のサービスを勧めることもある」。阪本さんはこう明かす。敵に塩を送るような助言だが、あくまで「顧客の成功がゴール」だと考える。強みを生かせない分野で自社サービスを売り込んでも、途中でプランを解約されやすく、「費やす人件費などトータルでは赤字になる」(阪本さん)という。顧客の継続利用が利益の源泉となる定額課金型のサービスならではの思考法といえる。

阪本さんによれば、効率よく成果を出すには「常識を疑う姿勢」が欠かせない。年末年始の挨拶回りや客先への定期的な訪問はしない。一方で既存の顧客に役立ちそうな新機能はその都度、知らせるなど、信頼関係の強化に努めている。スマレジ全体でも、解約率は20年4月期で0.73%にとどまっている。

阪本さんがスマレジに入社したのは18年のことだ。前職はコピー機の保守を担うエンジニアだった。「あの営業、売った後はちっとも来(け)えへんなあ」。訪れたオフィスで顧客がこぼす愚痴を度々耳にした。「自分なら『売ったら終わり』にはしないのに」との思いが、スマレジ入社のきっかけになった。

とはいえレジアプリは更新のたびに機能が加わり、覚えることが多岐にわたる。多機能を売り物にするスマレジならなおさらだ。阪本さんはそれまでレジ打ちをしたこともなく「質問の意味がわからないことも度々あった」。

それでも顧客から学ぶ姿勢で店舗や使っているシステムについて地道に尋ね、知識を蓄積していった。スマレジの営業になってから約40カ月、予算を未達だった月は一度もなく、部内で指折りのセールスマンに成長した。

その手腕を買われ、阪本さんは20年から大阪本社の営業部隊の責任者になった。関西から中国・四国地方までの広域をカバーする。入社から3年に満たない若手中心の部隊だ。管理職として意識するのは「小さな成功体験を重ねてもらうこと」という。難易度が低そうな案件を経験の浅いメンバーに割り振るようにしたところ「若手の話す調子がかなり明るくなった」。

就任後、チームは3四半期連続で予算を達成している。それでも「自己採点は60点ぐらい」と控えめだ。

阪本さんの目標は、外部のサービスも含めて顧客に様々な提案ができる「店舗のコンサルタント」になること。「既存の顧客が追加で発注してくれるのが一番うれしい」。そう語る阪本さんに慢心はない。

(梅国典)

さかもと・まさし
 2018年スマレジ入社。コピー機の保守エンジニアから営業に転じた。20年5月から大阪本社の営業部隊の責任者に。大阪市出身。
[日経産業新聞 2021年3月19日付]

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