ベルリン審査員大賞・濱口監督 深い洞察と果敢な実験映画評論家 斎藤敦子氏

審査員大賞の濱口竜介監督「偶然と想像」
審査員大賞の濱口竜介監督「偶然と想像」

オンライン開催の今年のベルリン国際映画祭はルーマニアのラドゥ・ジュデ監督作品が金熊賞、濱口竜介監督「偶然と想像」が審査員大賞を受けた。映画評論家の斎藤敦子氏が報告する。

第71回ベルリン国際映画祭は、コロナ禍で史上初のリモートによる開催となり、3月1日から5日までプレスと映画業者向けに上映作品が配信された。今年の審査員は金熊賞受賞監督6名。審査もリモートなので、イランから出国できない昨年の金熊賞受賞者モハマド・ラスロフ監督も審査に加わることができた。

強いテーマ性

金熊賞を受賞したルーマニアのラドゥ・ジュデの「バッド・ラック・バンギング・オア・ルーニー・ポルノ」は、プライベートで撮った性行為の動画がネットで拡散し、女教師が保護者たちから辞任を求められる。SNSとコロナの時代の不寛容さを背景に、ルーマニアが抱える社会問題を風刺したコメディだ。もともとベルリンはテーマ性の強い映画が評価される傾向があるが、審査員が全員映画監督だったことも、強い政治的テーマを持ったこの作品に有利に働いたように思う。

ラドゥ・ジュデ監督「バッド・ラック・バンギング・オア・ルーニー・ポルノ」

二席の審査員大賞は濱口竜介の「偶然と想像」に。人間関係の表と裏、虚と実を3つのエピソードで描いた短編集で、登場人物2人ないしは3人の会話が進むにつれ、それまでの関係性が反転し、新しい様相が現れる。深い洞察力と果敢な実験精神は、ロカルノ映画祭で女優賞を受賞した「ハッピーアワー」以来の濱口の持ち味でもある。日本映画界にとっては濱口が脚本を担当した黒沢清「スパイの妻」のベネチア映画祭監督賞受賞に続く嬉(うれ)しいニュースとなった。

審査員賞のマリア・スペス「バッハマン先生と彼のクラス」は住民の7割が移民という地方都市で小学校の最高学年を教えるバッハマン先生とドイツ語もおぼつかない移民の生徒たちを追ったドキュメンタリー。監督賞のデーネシュ・ナギー「自然の光」は第2次大戦中、ロシア戦線にかりだされ、信頼する上官の不正を目撃したハンガリー兵の心の葛藤を描いたもので、ドキュメンタリー出身ナギーの劇映画デビュー作だ。

今年から俳優賞にジェンダーの区別がなくなり、主演演技賞はマリア・シュラーダーの「アイム・ユア・マン」のマレン・エッガート、助演演技賞はベネデク・フリーガウフの「森――あなたはどこにでもいる」のリラ・キスリンガーの2女優が受賞。

脚本賞に傑作

完成度が最も高かったのは脚本賞を受けたホン・サンスの「イントロダクション」だった。3つのエピソードから青年の人生を描いた作品で、無駄な説明を省き、最小限の時間で、青年の人生の紆余曲折(うよきょくせつ)を豊かに想像させる。ミニマルな映画作りで映画表現を突き詰めてきたホン・サンスの1つの頂点を示す傑作だ。

映画評論家 斎藤敦子氏

編集のイブラン・アスアドが芸術貢献賞を受賞したアロンソ・ルイスパラシオスの「ア・コップ・ムービー」はメキシコの警官と警官を演じる俳優の虚実2層をモザイクのようにモンタージュした面白い映画だった。ネットフリックスオリジナル作品なので配信で鑑賞可能なことも今日的だ。

今回初めてオンラインで映画祭に参加して、映画祭という場で映画を見ることの楽しさに改めて思い至った。映画祭の意義は映画を見ることだけにあるのではない。映画を通じた人との出会いにもある。ベルリン映画祭は6月に市内の映画館で観客を入れた第2弾が予定されている。無事の開催を願ってやまない。

[日本経済新聞夕刊2021年3月16日付]

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