家事は主婦がするもの? 無意識の思い込み、転換も
生活コラムニスト ももせいづみ
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と女性蔑視発言をして辞任となったのは記憶に新しいところ。真剣に怒る人たちの一方、これがなぜ問題視されるのかよくわからないという人の話も伝え聞く。世代間のギャップといえるのかもしれないが、新型コロナウイルス禍の今、私たちは価値観の転換期にいるように感じる。
家事についても例外ではないように思う。ジェンダーフリーの発想でいけば、家事と主婦を安易に結びつけるのは、「主婦」と性別を限定する言葉を使っている時点で、立ち止まって考える必要がありそう。では「主夫」を並列すればよいのかといえば、それも結局は性別を限る。メディアもこのあたりの言葉の使い方にはセンシティブになってきているようだが、私たちの心の中にはまだまだ気づきに至っていない思い込みがたくさんあるように思う。
SDGs(持続可能な開発目標)の視点からすると、「きれい好きで掃除も洗濯も毎日きちんと、ちゃんとする」ことは美徳ではないことになりそう。現代は掃除も洗濯も調理も、電気やガスなどエネルギーを消費し、その分、二酸化炭素(CO2)やゴミなどの廃棄物を出すからだ。これからは家事の頻度も時間も少ない「のんびり、おおらか」な人のほうが、お手本になっていくかもしれない。
機会均等の視点を持てば、特定の誰かが家事を極めることは、他の家族から家事の機会を奪うことにもなりかねない。「洗濯物のたたみ方が違うのでやり直した」「食器の洗い方が雑なので洗い直した」といった経験がある人は要注意。家事にも独占禁止法があると思って、なるべくみんながそれぞれのやり方で、ゆるやかにシェアしていくのがいいのだと思う。
とりあえず、タオルをサイズダウンして洗濯の頻度を減らし、ほこりがたまりにくいインテリアの工夫をして、掃除の頻度も減らしてみる。朝から火を使う料理をしなくてもいいと割り切って、旬の食材をシンプルな調理法でいただく。家族で家事をシェアして、人のやり方は尊重し、失敗もおおらかに許す。家事が苦手で嫌いでも、自分や誰かを責める必要なんてぜんぜんないように思う。
じゃあ家事はどんどんしなくなっていっていいの?というと、そうでもない。家の中で完結しているようにみえる家事でも、その先で世界や地球と密接につながっているからだ。食材や衣類などの生産や運搬過程、日々の家事で消費される水や電力のことを意識し、エネルギーを節約して環境負荷の少ないと思われる製品を選んでいく。こういった新しい家事の知恵はこれからさらに必要となっていくはず。家事を入り口に考える新しい価値観。発想転換のヒントがたくさんありそうだ。
東京都出身。暮らし、ライフスタイルを主なテーマとするコラムニスト。本コラムを含め、自著のイラストも自ら手がける。新刊に「お弁当にスープジャー」(辰巳出版)、「新版『願いごと手帖』のつくり方」(主婦の友社)など著書多数。
[日本経済新聞夕刊2021年3月16日付]
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