都市政策も影響
都市計画の観点からも、興味深い一冊がある。橋本健二・浅川達人著『格差社会と都市空間』(鹿島出版会・20年)である。本書は、1キロメートル四方のメッシュデータを用いて、東京圏における「地域格差がどのように変容してきたのか、そして、作られてきたのか」を示す。
同じ経済状況にあっても、貧困が子どもに及ぼす影響は、その子がどこに住んでいるのかによって異なる。首都圏と地方、また、首都圏の中でも地域格差は大きい。それを考えると、地域格差の縮小は子どもの貧困対策としても必要なのである。本書はその改革のための基礎知識を得る一冊だ。
このように子どもの貧困と関連するのは、教育政策だけではない。子どもの貧困は親の雇用や収入のみならず、医療費や家賃、食費などの価格、また地域の資源や社会資本(ソーシャル・キャピタル)、親の時間や健康・人間関係などの結果として生まれる。だからこそ、政策転換が必要なのは教育制度や福祉制度だけではなく、労働政策、医療政策、食料政策、住宅政策など多岐にわたるのである。
例えば、米国農務省は国民の11%を対象とする食料扶助を実施しているが、日本では食料政策で子どもの貧困を考えているだろうか。住宅にしても、エネルギーにしても、生活の必需品でありながら、その政策に貧困の観点は見られない。貧困の立場から熟慮した政策こそが、今必要とされている。
[日本経済新聞朝刊 2021年3月13日付]