「起承転鶏」。漢字文化圏の韓国にはこんな四字熟語がある。いわく、どんな仕事をしようとも、最終的にはフライドチキン店を開業することになる――。大企業に就職しても40代後半でリストラに遭い、最後にチキン店を開くという韓国社会の悲哀を含んだ言葉だ。
実際にチキン店は、数百万円ほどの初期費用があれば特別なノウハウがなくてもフランチャイズチェーンに加盟し開業できることで知られる。政府系の国土研究院の19年の統計では、韓国にはチキン店が約8万5320軒あるという。日本のコンビニ総数の5万8000店と比べても多い。韓国の人口が日本の42%であることを考えればいかに多いかがわかる。
ただ足元ではチキン店の多くは繁盛している。韓国でチキンは出前で食べられる国民食として根付いている。出前アプリや配達員といった宅配サービスの基盤が整っており、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の影響下で、出歩かずに気軽に頼めるフライドチキンの消費量が増加傾向にあるためだ。
チキンチェーン大手の「BBQチキン」で、チキン1羽を頼むと1万8000ウォン(約1700円)だ。大ヒットした韓国ドラマ「愛の不時着」で何度も登場するのが、このBBQのパリパリの衣がついたピリ辛のフライドチキンだった。BBQだけでなく、多くのチェーン店ではビール2杯とサイドメニューが付いたセット売りが一般的だ。
そんな「チキン大国」にも値上げの影が忍び寄る。出前の増加によるチキンの需要拡大が鶏肉価格を押し上げる結果につながっている。さらに足元では鶏インフルエンザが韓国内でも流行中。全国の養鶏場で1500万羽超が殺処分され、国産鶏の供給量不足を招いているのだ。
韓国農水産食品流通公社によると、鶏肉1キロの平均価格は2390ウォンを記録し、この1年間で41%上昇した。急激な原料高に伴って今後は大手チェーンも値上げに動く可能性が高い。新型コロナと鳥インフルエンザ、2つの感染症に見舞われた韓国の国民食が苦渋の値上げを迫られている。
(ソウル=細川幸太郎)
[日経MJ 2021年3月8日付]