コロナ重症化リスク高める肥満症 予備軍含め2000万人
新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを高めるとされる肥満。以前は日ごろの生活での不摂生が主因と見られがちだったが、近年は病気の一つとの認識が定着しつつある。専門の医療機関や新たな手術方法も登場し、治療環境は進化している。
一般的な肥満と、病気である「肥満症」には医学的な線引きがある。肥満症は体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った体格指数(BMI)が25以上で、糖尿病や脂質異常症、高血圧など11の健康障害が1つ以上発症している状態を指す。
がんとの因果関係も指摘され、国内の患者数は予備軍を含め約2000万人にのぼるとみられる。新型コロナに関しても、約2600件の入院例を解析した国立国際医療研究センターの研究によると、肥満や高脂血症の人は入院後に重症化する割合が高いという。
肥満症の原因の多くは過食傾向だ。食欲が高まる一方、代謝を抑える指令が脳に出るため、適正な食事量のコントロールが難しくなる。食欲を抑えたり、脂肪の排出を促したりする治療薬もあるが、最近は専門の治療拠点も増えつつある。
名古屋市立大学病院は2019年7月、全国の大学病院で初めて「肥満症治療センター」を立ち上げた。肥満症と関連の深い内分泌・糖尿病内科、消化器外科に加えて、臨床栄養管理室や睡眠医療センター、精神科などさまざまな診療科の医師らが連携。合併症を併発する可能性も想定し、一人ひとりに最適な治療法を提供する。
食事療法や運動療法、薬物療法といった内科的な治療法のほか、胃の一部を切除する減量手術も手がける。外科手術は「内科治療より体重の減りが大きく、併発している合併症にも高い効果が期待できる」(滝口修司センター長)という。
センターでは体内に挿入したカメラの映像を見ながら処置する腹腔(ふくくう)鏡手術で、胃のおよそ3分の2を切除する。開腹手術に比べて傷口が小さく、術後の回復も早いのが特徴だ。開設以降の実績は18件で「コロナの感染状況を踏まえながら、手術数を増やしていきたい」(同)。
肥満症の手術をめぐっては、患者の負担を減らす研究が進む。東京慈恵会医科大学では、炭山和毅教授らのチームが内視鏡を使った治療法の特定臨床研究に着手。米国の医師らが開発した手法で、口から入れた内視鏡を見ながら胃を縫い合わせ、切らずに容積を小さくする。
海外の報告によると、合併症のリスクが少なく体重減少も数年間保てるという。慈恵医大では昨年11月に1回目の手術を実施済みで「コロナ禍で術後の運動療法が十分ではないが、一定の減量効果は確認されている」(広報担当者)。今後は対象の患者を20人に増やし、術後6カ月間の経過を調べる計画だ。
体への負担が少ない減量手術が国内でも普及すれば、患者にとって治療の選択肢が広がる。一方、滝口氏は「手術をすれば自動的に痩せるわけではなく、患者自身が術後の行動をいかにコントロールできるかが大切だ」と助言する。
医療技術だけに頼らず、治療に取り組む患者本人の意欲が欠かせない点はほかの病気と同じだ。「減量したいという気持ちをサポートする手段の一つとして考えてほしい」(滝口氏)。肥満症の改善に近道はないようだ。
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改善は地道な積み重ね
肥満症治療とメタボリック症候群に関する啓発活動に取り組む一般社団法人・日本肥満症予防協会(東京・千代田)によると、「肥満」全体の95%は体内に摂取したエネルギー量が消費量を上回る単純性肥満にあたる。肥満予防の第一歩は「食生活の改善や運動など生活習慣を見直す」(協会の担当者)だ。
食生活の改善策として、協会が挙げるのは「夜間に食べ過ぎない」「アルコールは適量に」などの5項目。運動習慣も「普段からエレベーターを使わないなど、日常動作の積み重ねで肥満改善効果が望める」。肥満改善は地道な積み重ねだ。
新型コロナウイルスワクチンの接種では、体格指数(BMI)が30以上の場合は基礎疾患を持つ人と同様に優先接種の対象となる予定。コロナ禍で肥満の健康リスクが高まっていることを再認識したい。
(飯塚遼)
[日本経済新聞夕刊2021年3月3日付]
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