卵とチーズでまろやか 香り立つ、門司港の焼きカレー
明治期から昭和期にかけて国内有数の貿易拠点として栄えた北九州市の門司港。昭和初期までに建築されたレトロな建物が多いJR門司港駅周辺に20店以上が軒を連ねる名物料理が「焼きカレー」だ。
門司港の飲食店でつくる「門司港グルメ会」によると、焼きカレーはカレーライスと卵、チーズをグラタン用の容器に入れ、オーブンで焼くのが一般的。クミンやターメリック、カイエンペッパーなどのスパイスが利いたルーを卵やチーズと一緒に熱することで、辛さがまろやかになり、香りも一段と引き立つ。
門司港駅から徒歩1分。駅前広場に面した通り沿いにある「伽哩(カリイ)本舗門司港レトロ店」は平日の午後1時半すぎでもほぼ満席だった。村山大成社長は門司港グルメ会の焼きカレー部会の代表も務める。こだわりを聞くと「卵とチーズの調理に関する特許」と即答。生卵とチーズをのせる手順を工夫することで、卵黄をふっくらと焼き上げ、「まろやかな口当たりとこくのある味に仕上げている」。
「シーフードの焼きカレー」はエビやホタテ、イカ、白身魚のエキスがカレーと合わさって絶品。シーフードはセ氏320度の特注オーブンで5分程度焼き上げるが、焼き時間は具材ごとに変える。
グラタン用の容器のほか、パエリア用の鉄鍋も使うのは「プリンセスピピ門司港」。タイの王宮料理をベースに独自に考案した「王様焼きカレー」を提供する。ココナツミルクやハーブを多く使い、他店に比べ甘みや酸味が強いのが特徴だ。
業務用の強火と鉄鍋でカレーを焼くと、ご飯にお焦げができる。お焦げとカレーを一緒に食べると、インドカレーとも欧風カレーとも異なる「和風テイストの味になる」(岡嵜孝和社長)と評判だ。鉄鍋で焼いた後、改めてバーナーで具材をあぶる一手間が香りを強めている。
1978年創業の老舗「こがねむし」は店主の藤本英幸さんと妻の千恵美さんの夫婦で切り盛りする。千恵美さんは「うなぎのタレのように開店以来、毎日継ぎ足して作っているルーが自慢」と笑う。ルーを作るときに注ぐスープは10種類以上の野菜と数種類の肉を3日間煮込み、味に深みを出している。駅前通りから少し外れたところにあるが、価格も手ごろとあって、親子で通うファンが多い。地元の人が食べる焼きカレー店に行きたい人にお勧めだ。
伽哩本舗とプリンセスピピはテークアウトやインターネット通販にも対応している。
門司港グルメ会によると、焼きカレーが生まれたのは約半世紀前。起源は諸説あるが、「こがねむし」の藤本千恵美さんは「門司港に寄った船員が行きつけの店に当時珍しかったチーズをあげた際、カレーと一緒に調理したと聞いた」と話す。門司港周辺では焼きカレーは家庭料理の一つでもある。卵やチーズの種類を変えながら、自分好みの味を見つけるのも楽しい。福岡県や北九州商工会議所が焼きカレーの地域ブランドへの認定などを通じ、知名度向上に努めている。
(北九州支局長 山田健一)
[日本経済新聞夕刊2021年2月25日付]
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