海外でも近年、治療用アプリへの注目が高まっている。米国では一足早く2010年に糖尿病の治療用アプリが米食品医薬品局(FDA)に薬事承認され、民間保険会社の保険で治療を受けられる。欧州でも糖尿病や不眠などの治療用アプリが保険適用されるなど広がりを見せている。

インドの調査会社「マーケッツアンドマーケッツ」によると、治療用アプリを含むデジタル治療の世界市場は20年の21億ドル(約2200億円)が、25年までに69億ドルと3倍以上に拡大すると見込まれる。

日本でも保険適用を目指し治療用アプリが続々と開発されつつある。CureApp社は高血圧治療用アプリの第3相臨床試験を現在実施中だ。田辺三菱製薬も京都大学などと、うつ病治療に使うアプリの開発販売でライセンス契約を結んだ。塩野義製薬はADHD(注意欠陥多動性障害)向け治療用アプリの国内での実用化を進めている。

がん治療分野でも第一三共がCureApp社と現在製品化に向けて開発を始めている。がんの合併症の把握や栄養指導などにアプリを活用し、予後の改善を期待する。同社の佐竹晃太CEOは「世界中で様々な分野で新たな論文が出ており、今後も幅広い分野で治療用アプリが役に立つことが期待できる」と話す。

課題の一つが診療報酬制度での位置づけだ。保険適用された禁煙治療アプリの場合、「在宅振戦等刺激装置治療指導管理料・導入期加算」(1400円)や「疼痛等管理用送信器加算」(4回分2万4000円)など禁煙治療と別分野の既存の報酬項目の点数を準用した。厚生労働省は2022年の診療報酬改定で禁煙治療アプリの項目を新設する予定だが、今後、治療アプリについてどう報酬設定するかの議論も必要だ。

新たな企業の参入も見込まれるが、契約や支払いなどの仕組みが統一されていないと医療機関が導入しづらい。アプリの情報を患者の他の健康情報と統合できるように規格を整備することなども、今後のアプリ普及のカギを握りそうだ。

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医療デジタル化 遅れる日本

医療情報のデジタル化で日本は遅れている。2017年の病院の電子カルテ普及率は全体で46.7%、400床以上の病院に限っても85.4%にとどまる。統一規格がなく、多額の費用がかかることが普及の大きな壁になっている。

政府は国民の健康医療記録を電子的に記録し、医療機関間で共有することをめざした日本版EHR(Electronic Health Record)を10年ごろから推進した。医療機関側の負担が大きく、管理者責任なども曖昧なことから実質稼働している地域は少ない。

近年注目を集めるのがPHR(Personal Health Record)だ。個人が健診結果や体重、血圧などをスマートフォンアプリなどで管理できる。21年3月からはマイナンバーカードの専用サイト「マイナポータル」で特定健診(メタボ健診)のデータ提供が始まる。レセプト記載の薬剤情報なども閲覧できる。

ただ交付済みの同カードは人口の25.3%で、健康保険証としての利用申し込みも7.8%だ。利用したいと感じるようなインセンティブ設計も必要だ。

多くの医療機関の協力も不可欠だ。医療機関の中には患者にカルテを積極的に開示することに後ろ向きな機関も少なくない。米国などではカルテの閲覧が患者の当然の権利として認められている。日本でも「カルテは患者のもの」という意識改革が求められそうだ。(吉田三輪)

[日本経済新聞朝刊2021年2月22日付]

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