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JFEスチールの一井寿武さん

JFEスチールの一井寿武さん

JFEスチールの建材営業部で課長を務める一井寿武さん(45)は、国土強靱(きょうじん)化対策で地盤の補強に使う鋼管杭の大型受注を2件つかんだ経歴を持つ。情報収集を徹底し、製造から物流までの課題を一つ一つ克服していくのが持ち味だ。社会人野球の選手でもあった一井さん、「やるべきことはすべてやる」と、一球入魂で仕事に臨む。

数万トンの大型受注を取り付けた製品は、長さ数十メートルに及ぶ鋼製の杭(くい)。地面に打ち込んで地滑りなどを防ぐ大雨洪水対策に使う。

施工工事の参加者はゼネコンをはじめ、商社やメーカーなど様々だ。毎回「顧客」が異なるため、案件ごとに特化した対応が求められる。一井さんはこうした営業現場に10年近く携わってきた。

入社したのは1998年。JFEの前身である川崎製鉄に硬式野球部選手として入った。投手として4年ほど活躍し、引退後の2003年に西日本製鉄所の工程部で製品の物流管理を経験。06年からは名古屋支社の総務室で管理職の日程管理を担当した。ただ内心は建材や自動車部材の営業マンとしてバリバリ働きたいとの思いが募っていた。

そして09年、名古屋支社の建材・厚板室へ配属され、営業マンとしての業務が始まった。すでに活躍している野球部OBの背中も見ながら、ひたすらスキルを磨いた。

そんな中、エネルギー事業会社のプラントでの工事案件が舞い込んできた。「それまで一度も手がけたことがない大型案件」だった。

当初は案件を獲得しても、利益を出せるかが見通せず、社内には慎重な意見もあった。「大事なのは、少しでも幅広く情報を集めることだ」と一井さん。まずは日ごろから付き合いのある商社などを回り、案件に関する聞き込みを繰り返した。入札やメーカーを決めるキーマンを見極めて、接触を図るためだ。

そのキーマンは意外なところにいた。年末カレンダーを届けに行ったことしかない担当外の顧客だった。案件を追いかけていることを話すと、入札で最有力のゼネコン会社と事情に詳しい人物を紹介してくれた。さらに競合他社はまだ、この案件に着手していないことも分かった。

「情報は生もの。即座に社内向けの説得を始めた」といい、その素早い対応が効いてJFEは事業への参入に乗り出した。部署横断で約20人のチームが社内で結成され、一井さんは販売部門の代表として加わった。「本当に受注がとれるかどうかの見極めが大事だった」と振り返る。

そこで重要なのは製品をきちんと納入できるかの出荷プランだ。顧客の要望は9か月間で数万トンの鋼管杭を納品すること。製造能力と輸送ルートの確保が受注獲得の絶対条件だ。他の製品の生産計画を邪魔せず、期間内に造りきれるよう工場と調整を徹底した。物流管理時代に培った知見もフル活用し、輸送ルートの課題も克服。約半年をかけて事業プランを練り上げた。

もちろん納入価格も大きい。最終的に、他社よりコストを大きく抑えた出荷プランが評価され、鋼管杭の大型受注を獲得。チーム一同と抱き合って喜んだ。

その後も数万トンの鋼管杭を扱う2件目の大型案件に遭遇した。40メートル以上の長尺杭を顧客から求められ、輸送に対応できる新製品の開発が必要だった。一井さんは常に開発に前向きな年上の技術者に声をかけ、品質検査も含めて新型の長尺杭の開発にこぎつけた。「キーマンは社内にも、社外にもいる。常に目を光らせる必要がある」と一井さんは話す。

数々の受注をつかんだ一井さんの胸には、野球部の先輩営業マンたちの教えがある。中でも大切にしているのは「鉄を売る前に自分を売れ」。ライバルと同じ条件になったときに「選ばれる営業マン」になれという意味だ。

現在も野球部の先輩らと連携しながら案件に取り組んでいる。40代でも今の東京の建材営業の部署内では若手の部類だという。新型コロナウイルス禍で営業スタイルも変容を余儀なくされているが「3密を避けつつ顧客と密になり、一井から買いたいと言われる存在になりたい」と話す。

(永森拓馬)

いちい・としたけ
1998年、旧川崎製鉄の硬式野球部に投手として入社。その後、JFEスチール西日本製鉄所で物流管理などを担当。2009年以降、名古屋、東京で土木建材の営業を担う。
[日経産業新聞 2021年2月17日付]

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