教育家・小川大介さん 「人の助けに」親の方針が原点
著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回は教育家・小川大介さんだ。
――大阪のご出身ですね。
「祖父母、両親と弟、妹の7人家族。丸いちゃぶ台を囲んでわいわいガヤガヤ、漫画『サザエさん』そのものの一家でした。父は中堅商社に勤めていましたが、母が三味線の師範だったこともあり出入りする大人と会話をする機会が多かった。子供扱いされなかったせいか、口が達者になりました」
「親の教育方針は単純明快、『人の助けになれ』でした。長男で成績優秀だったこともあり、細かいことをあれこれ言われたことはありません。ただ、一度だけ父から成績表について問われました。理由もなく反論したら、『上や下ではなく自分のやりたいことを考えたらどうや』と返されました。教育家として頑張ってこられたのも、あのときの父の言葉にあると思っています」
――新聞から世界を知ったとか。
「朝、ポストに配達される新聞が楽しみでした。居間に広げて、父といっしょに読むんです。読む記事と興味があるものは別なので、ページをめくるタイミングが重要。『ええかぁ』と父の声でパサッと紙面がめくられます。新聞が閉じられると父とのちょっとした議論が始まります。どんなささいな質問にも父は聞き流すことはなく答えてくれました」
「政治や経済、文化……。新聞を通して世の中に興味を持つことができました。思えば1時間程度だったと思います。新聞を前にして父との関係は深まり、父も私を理解してくれたと思っています。裁判の記事を読んで法曹界に興味を持ち、大学は法学部に進みました」
――なぜ、教育家の道を選んだのですか。
「大学の仲間と始めた塾で、子どもたちに教える喜びに気づきました。おかげで大学には8年も通う羽目になりましたが。親戚からはいろいろ言われたようですが、父は『余計なお世話じゃ』と一蹴していたそうです。本音では長男がどうなるのかビクビクだったと思いますが、最後は信頼してくれていたのでしょうね」
「親子の関係は信頼と期待のバランスのもとに成り立っているのでしょうか。子供は信頼されていないと感じると親への反発心が高まりますし、期待が強すぎるとプレッシャーやストレスになる。微妙なバランスでつながりを維持しているのが家族なのかな。先日書いた著書を父に送ったら、うれしそうに『何冊も送ってくるな』と」
「この1年はコロナ禍で学校訪問も中止、志望校の情報を十分に得られず、不安な受験生が多かったと思います。合否に関係なく受験の経験は将来必ず役に立ちます。何よりも両親、家族へのありがたみを実感できる絶好の機会だったと思います」
(聞き手は生活情報部 佐々木聖)
[日本経済新聞夕刊2021年2月16日付]
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