BSE問題に直面 「おまえが決めろ」対応で苦渋の決断協和キリン社長 宮本昌志氏(下)

医薬品の実用化に向けた製品戦略を練った(後方中央)
医薬品の実用化に向けた製品戦略を練った(後方中央)
■腎疾患領域の医薬品戦略に携わる。

2001年にキリンビール(現キリンホールディングス)の医薬カンパニーでプロダクト企画担当を任されました。ITシステムなど研究環境を整える役目を離れ、医薬品をどう市場に投入すれば効果的なのか、研究の進捗を見ながら大所から戦略を練る立場です。

当時の屋台骨は米アムジェンと開発したバイオ医薬品の「エスポー」でした。透析患者に多くみられる腎性貧血の画期的な治療薬だとして、キリンの知名度を高めていました。

エスポーを核に腎疾患領域のラインアップを広げるのがキリンの戦略です。より効果が持続する後継品の「ネスプ」などの実用化に向けて、市場調査や臨床試験(治験)の計画策定などを担っていました。

■00年代初頭、BSE(牛海綿状脳症)問題に直面した。

エスポーや開発中のネスプなど、バイオ医薬品の製造には動物由来の細胞を使います。当時はこうした細胞を培養する際に、牛の血清を添加していました。ホルモンの供給が細胞の成長に欠かせないからです。

ところがBSE問題が世界的に広がると、社内でも牛の血清を使うことの是非が議論されるようになってきました。

血清を使わない新手法に取り組むと、細胞の物性が変わる恐れがあります。薬事当局からの許可も必要です。なにより新しい設備の導入には数百億円の投資が必要となる。現状維持でもいいのではないか、との声もありました。

そういった議論に誰かが結論を下す必要が出てきました。キリンの医薬カンパニーのトップから「企画担当のおまえが決めるのだ」と言われ、対応策を提案することになりました。

■社内の各部署を回り最善策を探った。

社内の話し合いは数カ月に及びました。

製造や品質管理の担当者と共に、無血清にした場合の新設備の導入にかかる手続きや課題について洗い出しました。医療現場で医師と接する営業とは、競合他社が無血清のバイオ医薬品を出した場合に、血清を使い続けた我々の薬を受け入れてくれるのかも議論しました。個人的にも悩みに悩みましたが、無血清が最適との結論で経営会議に提示し、了承されました。

企画担当は直接薬に関わらず、当事者と話をして計画全体をまとめるのが仕事です。判断基準として重視したのは、患者や医師が安心できる正しい選択をしようということでした。この基軸があったからこそ、各部署との議論も建設的に進み、危機に際しても一体感が生まれたと思います。

あのころ……

世界の製薬業界は2000年代以降、M&A(合併・買収)を通じた大再編時代を迎えた。キリンホールディングスは協和発酵工業を買収し、08年に協和発酵キリン(現協和キリン)を発足させた。人の免疫機能を活用したバイオ医薬品の一種、抗体医薬品で存在感を高めた。

[日本経済新聞朝刊 2021年2月9日付]


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