米バイデン政権始動 女性や若手、多様性担保は安心感
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
1月に就任した米国のバイデン大統領は78歳。米国史上最高年齢の大統領となる。上院院内総務のマコーネル氏も同じく78歳、下院議長のペロシ氏は80歳と、上層部には高齢のベテラン政治家が目立つ。しかし同時に若手の台頭も目覚ましい。50代のハリス副大統領に加え、今回閣僚入りしたブティジェッジ氏は30代だ。米新政権の年齢のダイバーシティーを感じる。
バイデン政権誕生により、米国政治はダイバーシティーという観点では遅れを取り戻したように見える。史上初の女性、そして有色人種のハリス副大統領は、次期大統領候補の本命と期待されている。内閣の女性比率もほぼ半分に達し、アフリカ系やアジア系が要職に任命された。ブティジェッジ氏は同性愛者を公言する初めての閣僚だ。
「国民の姿を反映した政府をつくる」。バイデン大統領は公約を実行に移した。実は多くの国で多様性を反映する政権は当然の姿になりつつある。
比較的早い時期からジェンダー・パリティ(男女の同等な処遇)が進んだ北欧諸国のみならず、近年はカナダ、スペイン、ニュージーランドなどの政権でダイバーシティーの躍進が目覚ましい。政府は国民の鏡であり、多様性を尊重する姿勢を明確に打ち出すべきだとの考えが浸透している。
経済協力開発機構(OECD)の調査では、女性閣僚比率と国民の政府に対する信頼には相関関係が存在することが指摘されている。多様な価値観や視点を政策決定に取り込むことは、強靱(きょうじん)な国家づくりに貢献するだけでなく、国民の様々な声がトップに届くという安心感の担保にもつながる。
新型コロナによって人々の生活が危機的状況に陥った今、多様な声に耳を傾けることができる政府に、国民は信頼と期待を寄せるのではないか。
バイデン大統領の就任式でとりわけ注目を浴びたのは22歳のアマンダ・ゴーマンさんだ。就任式での詩の朗読を史上最年少で務めた彼女は、自作の詩で、シングルマザーに育てられた黒人の女の子が、将来大統領を目指すことができるのが米国だという力強いメッセージを伝えた。
翻って日本を見ると、現内閣に女性大臣は2人だけという寂しい状況だ。ひとり親世帯で育った女の子が、将来日本の総理大臣になれると思えるような時代はいつくるのだろうか。
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。著書に『武器としての人口減社会』がある。
[日本経済新聞朝刊2021年2月8日付]
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