高齢の父に免許返納を説得するには
脚本家、大石静さん
両親は鉄道やバスなど交通の便の良い首都圏に住んでいます。高齢ドライバーが起こす交通事故が相次いでいるのを見ると、来年で73歳になる父親にも免許返納を促したいと考えています。うまく説得する方法を教えてください。(東京都・40代・女性)
◇ ◇ ◇
池袋で87歳のドライバーが運転する車が暴走し、31歳と3歳の母娘が亡くなった事故以来、世の中が高齢ドライバーは、誰も彼も危険運転をすると決めつけるようになりました。テレビのニュースやワイドショーは、高齢者の免許返納を声高に呼びかけましたが、その報道姿勢に、私はかなりな違和感を覚えました。
なぜなら、高齢者の運転能力には個人差があると思うからです。運転することに何の問題もない高齢ドライバーもいると思うのですが、そのことを忘れて、一律に高齢者は危険だと決めつけてしまうのは、高齢者の人権を侵害すると考えます。
免許保有者10万人あたりの死亡事故件数をみると、70歳から74歳が4.40件であるのに比べて、20歳から24歳が4.58件で、高齢者より多いのです。一方、25歳から29歳は3.44件でした。
この数字を見ると、70歳から74歳の危険度は20代と大きく変わりません。10代の死亡事故発生件数は11.43件とさらに高く、それゆえに自動車保険の掛け金も若いドライバーだと高くなるわけです。
データは警察庁交通局がまとめた2018年のものですが、ネット上でも見られますので、見てみてください。
それでですが、あなたのお父様は、どういう状況なんでしょうか? あなたが助手席に乗っていて、これはコワイ! と思われるような状況ですか? もしそうなら免許は返納された方がいいかもしれませんが、問題なく運転できているなら、返納する必要はないと思います。
都内で交通の便がいいとはいえ、長年車で移動していた人が、その手段を奪われたら、家にこもってしまったり、うつになってしまったりする可能性もあります。自由な行動は人間の根源ともいえる権利だからです。
痛ましい交通事故は一件でも少なくなければなりませんが、高齢者の自由な生き方を侵害することもまた、大きな罪であることを、忘れないでください。
時流に流されて、お父様を追い詰めるようなことがあってはなりません。そのことをいま一度考えていただき、お父様の運転技能だけでなく、性格なども考慮した上で、止むなき場合は別のサポートなども提示しつつ、話し合ってください。
[NIKKEIプラス1 2021年2月6日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。