コロナ下の育児、親のうつ防ぐ オンラインで孤立回避
新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛の期間が長期化し、幼い子供を育てる親がうつ病になるリスクが増している。昨春の緊急事態宣言後は子育て支援施設の一斉閉鎖などで親が孤立。うつ発症リスクが2倍以上に高まったとの分析もある。教訓を生かし、今年1月の再発令後は施設の継続開所やオンラインでのイベント開催など親の孤立を防ぐ工夫が広がっている。
東京都港区の子育てひろば「あい・ぽーと」。1月20日、幼い子供を連れた母親らがヨガを楽しんだ。講師はビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」で画面上から動きを示し、何組かの親子もズームで自宅などから参加した。
あい・ぽーとは昨春の緊急事態宣言後、ひろばの一時閉鎖を余儀なくされた。スタッフの間ですぐに持ち上がったのが「親が孤立する」との危機感だ。ズームを活用してリズム遊びや折り紙、英語などの講座を急きょ配信し、オンラインの子育て相談も始めた。
5歳の男児を育てる田中素子さんはこのオンライン講座や相談サービスに助けられたという。親の介護があり、感染防止のため息子の幼稚園入園は延期。庭で野菜を育てたり絵本を読んだり工夫したが「ストレスのせいか飲酒癖がついてしまった」。今はあい・ぽーとを通じた外部との接触が心の支えになっている。
巣ごもりで育児する親はストレスを抱えている。全国認定こども園協会が昨年5~6月、0~6歳児がいる約6000人に実施した調査では3人に1人が「イライラして怒りっぽくなった」とコロナ下での変化を訴えた。「孤立感や閉塞感を感じた」「子どもをたたいたり、たたきそうになった」との回答も多く、「家庭のSOSがあふれるようにつづられた」という。
過度なストレスや不安はうつ発症のリスクを高める。筑波大学の松島みどり准教授が育児アプリなどを運営するカラダノート、子育て関連サイト運営のベビーカレンダーと昨年10月に実施した調査では、産後女性の4人に1人にうつのリスクが確認された。通常は1割程度なので、リスクを抱える人は2倍以上。松島准教授は「感染への不安もあるが、社会のサポートを受けられない不安の方が大きい」と分析する。
親は外部とのつながりを求めている。江崎グリコが昨年9月に実施した調査では母親の約7割が孤独感や心細さを感じた。「地域のコミュニティーに参加できない」「子育て中のお母さんと交流できない」を理由に挙げた親がそれぞれ約4割に上った。
こうした声を踏まえ、自治体もオンラインの育児相談を始めている。企業も育児情報サービスのベビカムがオンラインで親向けの育児講座や「お茶会」を開くなど親が外部と接触できるサービスに知恵を絞る。
オンラインサービスには課題もある。継続的な利用を促すのが難しく、「対面希望の親も多い」(子育て支援施設のスタッフ)。NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事で恵泉女学園大学の大日向雅美学長は「子育て施設などを1時間だけでも利用できたら気分は全然違う」と指摘。今回の緊急事態宣言後はオンライン講座は継続した上でひろばも開所している。
感染不安から昨年9月までは自宅にこもっていた女性(39)は「いま8カ月の長女と2人で参ってしまった。ここに来た方が私も子供も健康だと分かった」と今はほぼ毎日訪れている。
「ストレスは我慢する必要がない」。国立成育医療研究センターこころの診療部児童・思春期リエゾン診療科の田中恭子診療部長はこう助言する。息詰まったときは、地域の保健センターやクリニックなどに相談するよう呼びかけている。
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親の孤立回避、NZは国主導
コロナ下での親の孤立防止策は海外でも広がっている。ロックダウン(都市封鎖)が続く英国でも孤立を避ける取り組みがある。外出は厳しく制限されているが、子どもが13歳以下の世帯は別の場所に住む世帯のサポートを受けられる。
日本総合研究所の池本美香上席主任研究員によると、ニュージーランドは国が主導して休園や休校中の子供むけにテレビ番組を毎日放送した。保護者向けにも、子どもとの過ごし方や感染予防などの情報を国がホームページで公開している。
池本氏は2010~11年のカンタベリー地震で被災者が心理的な打撃を受けた教訓が生きていると分析。「コロナ下での育児に必要な情報が一元管理され、保護者が情報にたどり着きやすい」と評価し、日本は工夫の余地が大きいと指摘する。
(中村結)
[日本経済新聞夕刊2021年2月3日付]
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