見えづらい「生理の貧困」 日本も用品購入の負担減を
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
昨年11月、スコットランド議会は住民への生理用品の無償提供を全会一致で決定した。ニコラ・スタージョン首相は「必要とする全ての人に、生理用品を無料提供する世界で最初の国になる」と宣言。今後は学校などで生理用品の無償提供が義務づけられることとなり、公共施設も政府が無償提供を要請できることとなった。
たかが生理用品? そう思える人は女性たちがひそかに苦しめられている「生理の貧困(Period Poverty)」を見ずにすむ幸運な人といえる。これは経済的な理由により十分な生理用品が購入できない、ないしは利用できない人たちの苦境を意味する。途上国ではかねてより深刻視されているが、実は先進国も無縁ではない。
たとえば英慈善団体「プラン・インターナショナルUK」の調べでは、同国の少女の約10%が生理用品を購入できず、15%が購入に苦労し、19%がコスト面から自分には合わない商品を使用している。
女性が一生涯に生理である期間を合計すると7年間近くになる。そのための生理用品費の総額はおおむね30万から70万円ほどとされるが、200万円を超えるとの試算もある。さらに生理用品の不足による活動範囲や就業の制限による経済的損失を加味すれば「費用」はさらに増大する。
これは「女性のみに課せられる切実な出費」であり、放置は社会的不公平との観点から、ケニア、カナダ、インドなど複数の国では課税が撤廃されてきた。
日本ではどうだろうか。生理用品も満足に購入してもらえない女児が、必要に迫られ万引きしてしまう痛ましい事例も漏れ聞こえてくるが、公式な統計調査もなくこの話題を公に問うことへの忌避感もあり、見えにくい課題といえる。
国民生活基礎調査(2019)によれば、18歳未満の子どもの貧困率は13.5%。7人に1人が中間的な所得の半分以下で暮らしているため、女児への生理用品無償提供の潜在的ニーズは大きい。
それでなくとも、コロナ禍は女性への経済的ダメージが男性より大きい。労働政策研究・研修機構とNHKの調査によれば、20年4月以降に仕事を失った人のうち、11月時点で再就職していない人は女性が男性の1.6倍だ。この「格差」を埋めるためにも、日本でも無償化ないしは課税撤廃が検討されるべきだ。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2021年2月1日付]
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