声をかけにくい雰囲気はまずい?
作家、石田衣良さん
知識の蓄積や技能向上に努力しているのに、周囲は安易に尋ね、依頼してきます。イラっとするので声を掛けにくい雰囲気を醸し出しています。家族は自分の姿勢を心配していますが、マズいでしょうか。(東京都・50代・男性)
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マズいもマズい! もう致命的。あなたは現在、たいへんな危機下にあります。巨大な氷山との衝突コースに乗ったタイタニック号のようなもの。当人はいい気になって、技能研修と自己啓発に励んでいる。努力をもっと評価しろ。おまえたちも見習ってがんばれ、なんてね。
こういう人いますよね。家庭や職場に1人いるだけで迷惑千万、そのうえ周囲の空気を読めない鈍感な人です。
いいですか、あなたの武器はあと数年しか役に立たないなまくらです。しばらくすれば定年を迎え、第二の職場に移らざるを得なくなる。給料は下がり、自負する技能もさして評価などされません。「安易に尋ね、依頼してくる」年下の上司と折りあいをつけ、働くしかないのです。
気の毒なのは話しかけにくい部下とさよならできる会社の上司ではなく、あなたの家族です。役にも立たない知識を集め、いつも偉そうなことばかり言っていても、あなたにはもう能力や権力を振るう仕事場はありません。気難しく、他人に厳しい老人と、いっしょに暮らさなければならないのです。
ご家族があなたの姿勢を心配するのはもっともです。長年連れ添った妻でも、実社会で金を稼いでいない人間の言うことなど耳を貸さないのではありませんか。そんなことでは将来は真っ暗です。
では、残る三十余年をどう生きていけばいいのか。今のあなたと正反対のことをすればいいのです。仕事はそこそこで十分。会社員の行く末は50代ならもう見えましたね。期待の一歩手前でおしまいになるのが会社人生。そろそろ見切りをつけて、個人と家族の幸福を追求しましょう。
次なる人生の大目標は、気難しく話しかけにくい仕事人から、気さくでチャーミングな普通の人になることです。服装も清潔感に気をつけて、どこかかわいいポイントを一つ作るようにしましょう。仕事には頼れなくなるので、今のうちに趣味をたくさんかじっておきましょう。ためこんできた知識や技能は、近づいてくる誰にでも惜しみなく与えること。いい知恵をプレゼントすれば、いい人間関係やお金だって返ってくる。
最後に、あなたは知識があっても鈍いので、奥さんの言うことは教科書のつもりでちゃんと聞いてください。女性はまず間違えませんからね。
[NIKKEIプラス1 2021年1月30日付]
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