巣ごもりで増えるネット依存症 利用時間の記録で予防
コロナ禍で外出自粛が求められる中で、インターネットの利用時間がつい長くなりがちだ。ネット依存症になると心身だけでなく、家庭や仕事の人間関係も悪化することがある。しくみを知って未然に防ぎたい。
コロナウイルスはなお猛威をふるい、年明け早々から再び緊急事態宣言が発令された。ライフサポートクリニック(東京・豊島)の山下悠毅院長は「このコロナ禍で社会人のネット依存症が増えている。40代の経営者でオンラインゲームに毎月100万円課金している人もいる」と話す。
正式な病名ではないが、インターネット依存症とはネットを利用する行動をコントロールできなくなる状態。具体的には利用時間や投入金額を制限できず、生活に支障を来すようになる。
全国に先駆けて2011年から「ネット依存外来」を開いている国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)では、最初の緊急事態宣言が出ていた昨年5月、通院患者80人(12~44歳)のネット使用状況がどのように影響を受けたか調べた。
通院患者の1日当たりネット利用時間はそれまで平均6.5時間だったが、緊急事態宣言後は9.1時間に増加した。オンラインゲーム、動画鑑賞、SNS(交流サイト)に費やす時間が、すべて増えた。「圧倒的に多いのはゲームだが、最近はユーチューブなどの動画を延々と見続けるケースも増えている」と同センター精神科の松崎尊信医長は指摘する。
依存症になる原理はアルコールやギャンブルと変わらない。ネット利用により脳内にドーパミンというホルモンが分泌されて快感を覚え、やめられなくなってしまう。ドーパミンは積極性を出すスイッチであり、前向きに行動する意欲を失うようなストレスを感じるとドーパミンを出して対抗する。
ところがアルコールやネットなど外部の刺激に頼り続けていると、「いざストレスを感じたときドーパミンが出なくなりイライラする。やる気が出ず、うつ状態にもなりやすい」(山下院長)。昼夜逆転による不眠症などの睡眠障害、運動不足から体力や骨密度の低下、食事がおろそかになって低栄養になることもある。家族や仕事が二の次になり人間関係も壊れていく。
アルコール依存症と違って、ネット依存症には治療薬がない。また、「ネットは現代人の生活に欠かせないインフラになっているので使用をやめるわけにもいかず、治療が難しい」と松崎医長は言う。
どこからが依存症となるのか。自分で判断する目安としては、たとえば「ネットの利用を後悔する」のはコントロールできていない証拠だ。生活に支障を来している、ネットの利用時間や課金額を人に言えない、といった場合も受診を考えたほうがいいだろう。久里浜医療センターのホームページに、ネット依存症に対応する全国の医療機関リストが載っている。
ネット依存症にならないためには、まず依存の怖さを知り、ネット以外の楽しみやストレス解消法を持つことだ。松崎医長によると、「レコーディング・ダイエットのように毎日のネット利用時間を記録して振り返ることは効果的な場合がある」という。家族のいる部屋でパソコンを使うのも有効な予防法になる。家族の目の前で長時間ゲームに興じるのは難しい。
ストレス解消法はやはり運動がベストだ。球技やウオーキングなどもいいが、山下院長は「筋トレやマラソンなど、続けていけば確実に成長できる運動」を勧める。ゲームと同じように自身の成長を実感しやすい。やりとげたという達成感を得ることで、うつの予防にもなるという。
(ライター 伊藤和弘)
[NIKKEIプラス1 2021年1月30日付]
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