取材の途中、鈴木さんは補聴器の調整に使うソフトウエアを見せてくれた。横軸に音の高さ、縦軸に音の大きさを配したグラフなどが並ぶ。高音や低音を抑えたり、会話で使う音域を大きくしたりできる。風による雑音や騒音、食器がぶつかる「ガチャン」という音など、特定の音を減らす機能もそろっている。

このほか販売後のアフターフォローも大切な業務だ。補聴器を初めて使う人には最初は音のボリュームを下げて提供し、段階的に音量を上げる手順を取る。それまで「よく聞こえない」と悩んでいた人に音量を上げて手渡すと「聞こえすぎてうるさい」と感じて結局、補聴器を外す例があるからだ。加齢によっても聞こえ方は変わるため、継続的に来店してもらい、最適な調整を続ける必要がある。

「補聴器の調整に正解はない」と鈴木さん。現場では利用者のニーズを聞き取り、補聴器を調整する手法もスタッフによって異なる。先輩らの仕事ぶりを見て学びながら、補聴器を調整する手法の引き出しを増やしてきた。

「大学は文系で音に関する専門知識はなく、入社当初は混乱の連続だった」と振り返る。現在は仕事の幅を広げるため、民間資格の認定補聴器技能者の取得を目指して勉強中だ。1週間に1度開かれる若手向けの勉強会にも出席し、実例に基づいた対処法を議論している。

リオネットセンターの榎沢渉所長は鈴木さんについて「仕事に対する姿勢が前向きで一生懸命。接客のセンスがあるのに加え、お客様に寄り添って話を聞くので細かな悩みも聞き出せる」と話す。

鈴木さんに印象に残る仕事を聞くと、こう答えた。ある日、補聴器を求めて1人で来店した客がいた。「だんだんと耳が遠くなり、そのうち家族との会話がかみ合わなくなって、コミュニケーションが途絶えてしまった」と嘆く。後日、その人は家族とともに来店し「補聴器を付けて家族との会話が戻った」と笑顔で話したという。「補聴器は人と人をつなぐ大切なツール」だと鈴木さんは信じている。

(茂野新太)

すずき・かなこ
17年リオンに入社し、医療機器事業部の営業部に所属。同社の旗艦店であるリオネットセンター(東京・渋谷)で営業を担当する。東京都出身。

[日経産業新聞 2021年1月28日付]


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