追い求めた幻の味 岩手・岩泉の炭鉱ホルモン鍋

小川地区の「1001広場」では、しょうゆ味のスープに豚モツや鶏肉、野菜、地元の豆腐を入れる
小川地区の「1001広場」では、しょうゆ味のスープに豚モツや鶏肉、野菜、地元の豆腐を入れる

東京23区の約1.6倍と本州一の面積を誇る町、岩手県岩泉町。耐火粘土や石炭の採掘で栄えた小川(こがわ)地区で生まれたのが「炭鉱ホルモン鍋」だ。豚のモツに鶏肉が加わり、食感の違いが面白い。新型コロナウイルス禍の折、店を訪ねなくてもインターネット通販で「鍋の素」を購入すれば、同町のソウルフードを家庭で味わえる。

現在は閉山した小川炭鉱から約5キロメートル離れた国道340号沿いにある飲食店「1001広場」。名物の炭鉱ホルモン鍋はしょうゆベースのスープに豚モツや鶏肉、野菜、豆腐といった具材が並ぶ。熱々を口に運ぶとコリコリとしたモツの歯応えに続き、ニンニクが効いたスープのスパイシーな風味が広がる。

つい唐辛子に手が伸びるのを見て、小川仁志店長が「コショウの方が合うんですよ」と勧める。試してみると、モツの臭みがすっかり消え、プリプリとした食感の鶏肉と絶妙なハーモニーを奏でる。

精肉店などで「鍋の素」を売っており、家庭でも店の味を楽しめる(上あめや)

炭鉱ホルモン鍋のルーツは小川地区にあった人気店「あずまや」に遡る。1940年代の同地区には千人を超す鉱員らが暮らしており、朝鮮半島出身者が食べていた豚モツに着目して60年代半ばにホルモン鍋を出したのが始まりだ。だが、炭鉱は90年代に閉山し、同店もやがて閉店。レシピは伝えられず、小川店長は「味を思い出しながら試行錯誤して作った」と振り返る。

鍋の素を精肉店などで買って野菜や豆腐と煮込めば、家庭で楽しめるのも魅力だ。小川炭鉱跡から20キロメートルほど離れた同町中心部の精肉店「上あめや」の熊谷浩代表も同地区に通い、味付けを研究した。

「自家製の焼き肉のタレをベースに、香辛料などの材料をタレの2倍の20種類以上に増やして納得のレシピにたどり着いた」と熊谷代表。今や同町のふるさと納税の返礼品にも選ばれる人気商品で、ネット通販でも注文できる。

「B-1グランプリ」初参戦で8位に入賞(2019年、兵庫県明石市)

一方、最後発となる2017年にホルモン鍋を始めたのが、同炭鉱跡から約30キロメートルの「道の駅いわいずみ」だ。食べてみると、モツの臭みが気にならず、シャキシャキとした歯応えを残しながら甘みのあるキャベツが名脇役を演じている。レストランのシェフを兼務する野中恵介支配人は「モツをゆでる時に水を3回ほど替えて臭みを消し、キャベツは高温の蒸気で短時間で調理している」と明かす。

失われたレシピを追いかけ、各店が創意工夫を凝らす炭鉱ホルモン鍋。レシピが伝えられなかったからこそ、個性が魅力のソウルフードに育ったとも言えそうだ。

<マメ知識>初「B―1」で8位入賞
炭鉱ホルモン鍋の知名度向上に一役買ったのが、2019年に兵庫県明石市で開かれたご当地グルメの祭典「B―1グランプリ」だ。岩泉町内の飲食店主らで組織する「いわいずみ炭鉱ホルモン鍋発掘隊」として参戦し、初出場で8位に入賞。岩手県のご当地グルメでは初の快挙を達成した。
だが、昨年から新型コロナウイルスの感染拡大でイベント中止が相次ぎ、発掘隊は活動を休止。岩泉商工会はネット通販で上あめやなど3店の鍋の素を販売しており、巣ごもり需要の開拓に力を入れている。

(盛岡支局長 青木志成)

[日本経済新聞夕刊2021年1月28日付]

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