コロナで注目、親を見守るロボ 異変にも気付きやすく
新型コロナウイルスの影響で離れた高齢の親と会えない家族は多い。そこでAI(人工知能)ロボットやセンサーといった技術を使い、親の安否や暮らしぶりを遠隔で確認する動きが広がってきた。なかでも会話機能が備わったロボットは親の話し相手となり、孤独感を紛らす存在になっているようだ。
「節子さん、おはよう」。愛媛県西条市で一人暮らしをしている佐伯節子さん(89)の一日は居間のテーブルに置いた高さ30センチメートルの見守りロボット「パペロ」との会話から始まる。最近は足が衰え、手押し車につかまって歩いている。8年前に夫を亡くしてからは家での話し相手もいなかった。「かわいらしいロボット。いなくなったらさみしい」。今やなくてはならない存在だ。
音声認識AIやマイク、カメラに加え、温度・湿度センサーなども搭載。カメラが人の姿を追いかけ、顔を動かす。節子さんには「写真撮っていい?」と1日に3回声を掛け、撮影した写真を千葉県市原市に住む長男、洋一さん(63)のスマートフォンに送る。部屋の温度や湿度といったデータも届くといい、生活の様子がわかる。
洋一さんは「カメラを取り付けようと思ったが、本人が嫌がると考えやめた。いい方法はないか探していた」と話す。毎年帰省していたが、今はコロナ禍で自粛している。「直接会えない中、安否を確認できるので安心」と満足そうだ。
パペロはNECが開発し、2018年には西条市で実証実験を始めた。その実験で3カ月間無料で借りた1人が節子さんだ。実験期間を終えた後も市が初期費用(通信環境が整っている場合は税別2万5000円)の半額を補助しており、あとは毎月の利用料(同3700円)の負担で使える。他にも兵庫県市川町、静岡県藤枝市が導入した。
こうした見守りロボットやサービスは他にもある。幅はあるが、数万円程度の本体購入費用のほか、毎月の利用料や通信費が必要なケースが多いようだ。
カー用品大手のオートバックスセブンが19年から販売するミミズク型AIロボット「ズック」は会話した時刻や頻度、人の動きなどを知らせる。会話から利用者の体調や気分の状態を判断するのが特長。本人が「熱っぽい」と言えば、薬の服用や安静を促し、家族のスマホに「お母様は熱があるようです。連絡してはどうですか」と通知。逆に「きょうは楽しかった」と言えば、「何かいいことがあったようです」と連絡する。
大分県宇佐市の日高澄子さん(42)は同県豊後高田市に住む母親(69)にズックを購入。母が「肩が痛くて腕が上がらない」と話したら、スマホに通知が来て病院に連れて行った。「ズックが教えてくれなければ気づかなかった」と澄子さんは安堵する。
センサーで親の様子を検知し、子どものスマホに知らせるのがインフィック(静岡市)の「ラシク」。小さな箱に人感センサーや部屋の温度、湿度、照度を測るセンサーを内蔵。人の動きのほか、照度の変化で就寝・起床時間も把握する。
静岡県焼津市で一人暮らしの父親(91)のために導入した東京都の斎藤善和さん(54)は「24時間遠隔でチェックできて助かる」。父の行動パターンがわかってきて、普段と違う動きがあれば気付くという。
親の見守り事情に詳しい文京学院大の中島修教授(社会福祉学)は「コロナで親に会えず生活の変化に気づきにくい今、遠隔での見守りは有効だろう。監視カメラよりもソフトな見守りシステムであれば親の抵抗感も少ない」と指摘する。
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IT活用「魅力感じる」7割
セコムが親と離れて暮らす40~50代の500人に聞いた「親の見守りについての調査」(2020年3月発表)によると、親の安否確認方法で最も多かったのは「定期的に電話する」で81%だった(複数回答)。「LINEやメールでやりとりする」(37%)、「もしもの時、近所に対応を頼む」(16%)などが続く。「IT活用の見守りサービスに加入」は0.5%にとどまった。
親の日常生活に関する通知がスマホに送られる「緩やかな見守り」については魅力を「感じる」が19%、「どちらかといえば感じる」が53%。7割強が興味を持っていることになる。
見守りサービスを利用するとしたら何を重視するかでは操作のしやすさ、費用の安さが上位に。興味のある人が多く潜在需要はあるだけに、こうした課題がクリアされれば普及が進みそうだ。
(高橋敬治)
[日本経済新聞夕刊2021年1月27日付]
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