訓練を経て異音に気がついた若い女性運転士が、脱線事故を未然に防いだケースもあったという。全くの素人である記者はレバーの操作に精いっぱいで、小さな異音に気づくこともできなかった。
定時運行は運転士だけでなく車掌の腕前による部分も大きい。例えば、発車間際に駆け込んでくる乗客への対応。「駆け込み乗車は、ほかのお客様のご迷惑になるのでおやめください」との車内放送を耳にしたことがあるだろう。
運行サイドでは「乗せてあげたいという気持ちは禁物」とされる。いったん閉まりかけた扉を開け閉めするだけでも数十秒のロスが発生。この積み重ねがダイヤの乱れを誘発し、複数の路線や会社が乗り入れる都心部では回復が極めて難しくなる。
ホームを千鳥足で歩く酔客も、運転士や車掌はシミュレーターで訓練済み。危険を感じたら停止する。「人命には安易な考えを持ってはいけません」(JR東日本鉄道事業本部運輸車両部課長乗務員グループの久保田裕之さん)
現在、同社の研修施設には音楽館製の「トレインシミュレータ」が約90台あり、社員が2年に1度、訓練に臨む。採用は98年。「安心・安全はいつもあるわけではありません。訓練で基本を学んでいます」(久保田さん)
トレインシミュレータに続き車掌の訓練も受けた。乗客が無事乗車した後ドアを閉めて指さし確認。大勢の命を預かる仕事の重さを感じた。
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ホテルで運転士になりきり
東京・渋谷駅前にある渋谷エクセルホテル東急17階の客室。鉄道シミュレーターでは東急電鉄の東横線、田園都市線、大井町線の映像が映し出される。昨年末からサービスを始め、親子連れなどで連日「満席」。「どなたも部屋から外出されません。コロナ禍なのでお客様の健康に配慮、始発6時、終電23時と決めています」(アシスタントマネジャーの金沢ゆき子さん)
眼下には人波と絶え間なく行き来する電車を見られる。ジオラマのようだ。渋谷駅と連携した「駅長体験(子供限定)」も用意されている。鉄道ファンに人気なのもうなずける。
(佐々木聖)
[NIKKEIプラス1 2021年1月23日付]