事故の予兆を細かく再現 鉄道シミュレーターを体験

NIKKEIプラス1

音楽館の向谷実社長(左)に運転士訓練用「トレインシミュレータ」の操作を教わりながら体験する記者(東京都品川区)=佐藤 圭一郎撮影
音楽館の向谷実社長(左)に運転士訓練用「トレインシミュレータ」の操作を教わりながら体験する記者(東京都品川区)=佐藤 圭一郎撮影

人口減少、人手不足にコロナ禍で逆境が続く鉄道業界。日本の鉄道は安全や定時運行など世界でも高い水準を誇る。鉄道シミュレーターなる装置で、その秘密を体感した。

東京・五反田のオフィスビル。鉄道シミュレーター開発の音楽館社内には様々な車両の運転席と車掌室が配置されている。東北新幹線のE5系など鉄道マニアなら垂涎(すいぜん)モノの車両ばかり。運転席には独自開発した「トレインシミュレータ」を備える。

「試してみますか」。社長の向谷実さんに誘われたのが千葉県を走るJR成田線。平たんな場所を多く走るものの、カーブや直線が入り乱れ、プロの運転士でも神経をとがらせる路線として知られる。

ホームに入線。指示通りにマスコンハンドルと呼ばれるT字型レバーを操作するが、線路上に示された停止位置を大きく越えて止まった。

「素質ありませんね」。向谷さんの冷ややかな視線を感じつつ運転を続行。青空が広がり、野山を疾走する。見通しの良い直線を気分良く運転していると、目の前の踏切に乗用車が立ち往生していた。

レバーを奥に思いっきり倒して緊急ブレーキを操作するとともに、足元のペダルを踏んで警笛を鳴らす。キィーッと金属音を発しながらも、間一髪、衝突を回避することができた。シミュレーター上のできごとだが、あまりにリアルで肝を冷やした。「経験してはいけない事例を体感するシステムです」

向谷さんはジャズをベースにロックなどを合わせたフュージョンバンド「カシオペア」の元キーボード奏者。1985年に音楽事業を手掛ける音楽館を起業。95年に鉄道の趣味が高じてシミュレーションゲームを開発、発売した。

現在は、JR東日本など国内の鉄道会社に研修用の「トレインシミュレータ」を納入。映像は自社で撮影・編集し、天候状況に応じたものも用意する。

中でも音へのこだわりは人一倍で、向谷さんは「ポイントを通過する際のカタッ、コトッといった音は夕べに恋人の窓下で奏でられるセレナーデ」と話す。

シミュレーターには「コチィ」など2000~3000種類の小さな異音を紛れ込ませた。「運転士や車掌が事故の予兆として気づかねばならない異音などを特殊加工を施してソフトに組み込んだ」(向谷さん)

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