著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回はアイドルの長月翠さんだ。
――お母様がジャズ歌手の情家みえさんですね。
「私が10歳のころから母は歌手活動を本格化し、家で同じ曲を何時間も練習する姿をみていました。歌にかける熱意を感じ、すごいなと思っていました。17歳でラストアイドルのオーディションに合格、デビューしたのですが、歌に関しては母とぶつかることが多いんです」
「母は歌に寄り添うように優しく歌いますが、私はヒップホップ系の曲を激しく歌うのが好きで合わないんです。音程や英語の発音まで私が口出しし、大げんかになったこともありました。今はお互いの歌については尊重し合い、何も言わないという暗黙の了解ができました」
――長月さんはラスアイメンバーの中では歌唱力ナンバーワンといわれています。
「実は練習が嫌いなんです。同じ曲を時間をかけて練習すると、作り込んでいる感じがして私らしくないと思うんです。ライブでも雰囲気や客席の空気によって、自然に歌い方を変えています」
「練習が大事なのはわかるんですが、練習を重ねてその通りに歌うと、かえって自分のいいところが消えてしまうような気がして。練習嫌いの私を母はもどかしく思うようで、歌はあなたの武器なんだから、私より歌えるんだから、なんでもっと頑張らないのと怒るんです」
――アドバイスしてくれるお母様は貴重な存在では。
「ラスアイのデビューメンバーを決める最終イベントの番組で、暫定メンバーだった私は一度、落とされたんです。もう辞めますと宣言したら楽屋に大人たちが入れ代わり30人くらいやってきて、辞めるなと説得されました。気持ちは変わりませんでしたが、帰宅して母のひとことで変わりました。『アイドルを始めてから翠はとても輝いていたよ』と言われ、なぜか急に思いとどまりました」
「敗者復活戦を経てデビューし3年。ラスアイは新曲のたびに驚くような挑戦をしてきました。団体行動の歩行パフォーマンスや殺陣とかやりましたが、春の新曲では、インド舞踊のボリウッドダンスに挑戦します」
――将来の目標は。
「アイドルも楽しいですが、裏からサポートする仕事にも興味があります。将来、自分がプロデュースするアイドルグループを育ててみたい」
「もう一つの夢は海外で働くこと。インテリアの仕事をする父は海外出張が多く、知らない国の話をよくしてくれました。母はジャズ歌手ですから家で耳にするのは外国の楽曲ばかり。自然と海外への志向が芽生えたのかな。将来はユニセフのような、世界の子供の貧困をなくす活動に関わりたい。アイドル以外にもやりたいことがたくさんあって、それを実現していこうと考えるとわくわくします」
(聞き手は編集委員 鈴木亮)
[日本経済新聞夕刊2021年1月19日付]