一方、ジョージ・フリードマン『2020―2030 アメリカ大分断』(濱野大道訳、早川書房、20年)によると、いかに特異に見えようとも、トランプ個人はアメリカ史の大きな歴史的サイクルの一環にすぎない。なぜ制度は80年、経済は50年という周期なのかは不明だが、レーガンが既存の権力層に軽蔑されつつもそれ以前のルーズベルト経済を一新させたことに顧みれば、歴史的な通観の意義はわかる。サイクル論を下敷きにすると、白人工場労働者がトランプ氏を熱狂的に支持することにも合点がゆく。

周期的変化の中でも一貫して続いているのが、連邦政府の肥大化である。説明書が2万ページにも及ぶオバマケアはその典型で、もはや量子力学と同じく「誰も全容を理解しておらず、使い方だけがわかっている」状態である。こういう巨大権力の無能さが露呈すると、その失敗は意図的なものに見え、そこに陰謀論が胚胎する。ディープ・ステートが国を支配している、というのも恐ろしいが、実際には制度が空転しているだけで誰も支配していない、というのはもっと恐ろしい。同書には、今後10年は両サイクルの移行期が重なり未曽有の大変動が起きる、という大予言の付録もついてくる。

[日本経済新聞朝刊 2021年1月16日付]

なぜ中間層は没落したのか:アメリカ二重経済のジレンマ

著者 : ピーター・テミン
出版 : 慶應義塾大学出版会
価格 : 4,320 円(税込み)

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治

著者 : フランシス・フクヤマ
出版 : 朝日新聞出版
価格 : 2,200 円(税込み)

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