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トランプ米大統領退任後に国内政治の分断が収まるかは不透明だ イラスト・よしおか じゅんいち

最近のアメリカで困るのは、服を買う時である。あるのは極端に安い量産店か超高級なテーラードスーツの店だけで、旧来の中間価格帯が消えてしまったからだ。

ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』(栗林寛幸訳、慶応義塾大学出版会、2020年)は、アメリカ社会全般に起こっている中間層の消失を「二重経済」で説明する。従来これは発展途上国の経済モデルだったが、上位層と下位層でまったく異なる2つの経済が走るアメリカは、経済大国でありながら途上国の様相を示している、というのが同書の診断である。

中間層消失の波紋

中間層は民主主義の安定的な担い手なので、その消失はアメリカがすでに民主主義国ではなくなったことを示唆する。現代の寡頭制国家を支配しているのは、金融・技術・電子工学(FTE)という高度技能職の人々である。1970年以降、国民生産の増加分はすべて彼らの懐に入り、8割の人は実質賃金が増えていない。しかも現代の貴族たちには、社会への責任意識がない。賃金を抑え、税を回避し、劣化する公共インフラや公教育への支出を嫌うのである。

それなのに、なぜ白人低所得者層はこの制度を支持するのか。それは、上位層が巨額の政治投資をして彼らの意見を操作しているからだ。選挙には新たな差別も内包されている。合衆国憲法は当初黒人を白人の5分の3に数えたが、黒人男性は収監率が高く、刑務所では住民でも投票ができないので結果的に今も同じ状態だという。

二重経済は、格差間の移動に必要な教育にも障壁となる。だから若者たちは学費無償化を掲げるサンダース氏を支持したのである。刑務所の維持に必要な500億ドルの一部を公教育へ回すことができれば、というテミンの計算には考えさせられる。

放置される格差

格差の放置は、上位層にも潜在的脅威となる。西山隆行『格差と分断のアメリカ』(東京堂出版、20年)は、宗教や暴力などテーマごとの連載をまとめたもので、類書の中でも読みやすい。身近な事例の紹介は豊富な背景知識に支えられており、一般読者にも微視的すぎない概観を与えてくれる。

トランプ氏の4年間は、アメリカ史の文脈にどう位置づけられるか。フランシス・フクヤマは、30年前の『歴史の終わり』でも彼に触れていたが、新著『アイデンティティ』(山田文訳、朝日新聞出版、19年)では、ビジネスに飽き足らず大統領となった彼を挙げ、人間の歴史が承認欲求によって突き動かされる、というヘーゲル史観を再検証している。その普遍性と特殊性のギャップは、なぜリアリティ番組のスターが大衆の怒りを買うのかを説明するなど、存外に適用範囲が広い。

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