においがもたらす不調 化学物質で頭痛や吐き気
衣類の洗剤や化粧品の香りが強いと不快に感じることがある。香りとの関係は明確ではないが、頭痛などの症状が出る人もおり、化学物質過敏症の場合がある。においが心身に影響する仕組みを知り配慮したい。
日常生活で接する化学物質は約2万種類ともいわれている。微量の化学物質に反応して、頭痛やめまい、吐き気、せき、目・鼻・のどの痛みや刺激、不安感といった症状が表れることがある。繰り返す場合は化学物質過敏症と診断されるケースもあり、2009年には厚生労働省が保険診療の対象となる病名リストに登録した。
化学物質過敏症を専門とするそよ風クリニック(東京・杉並)の宮田幹夫院長は、「様々な化学物質に長期間さらされることで、その影響が蓄積して許容量を超えてしまい、体が悲鳴を上げている状態」と解説する。いったん発症すると、微量かつ多種類の化学物質に過敏になり、日常生活に支障がでることがある。
においに敏感な人は衣類の洗剤や柔軟剤、芳香剤、香水や化粧品に含まれる香料に反応することもある。国民生活センターには2014年から20年にかけて柔軟剤の香りに関する相談が900件以上寄せられ、その6割は心身の症状を訴えるものだった。また、100を超す自治体が学校などに、ポスターなどを通じて症状のある人への配慮を求めている。
香料に含まれる成分と症状との因果関係は、明らかにはなっていない。東海大学の坂部貢医学部長は「同じ香りでも人によって感じ方が異なり、不快な香りと感じることが、症状の引き金になっていることも多い」と指摘する。
これには、においを感じる嗅覚が関わる。視覚や聴覚など五感の中で嗅覚は最も本能的な感覚で、危険を察知する重要な役割を担っている。また、においは嗅覚路と呼ばれる伝達路を経て、脳の記憶を司る海馬、感情に関わる扁桃体がある大脳辺縁系に運ばれ、視床・視床下部に到達する。そのため、「においの刺激は記憶や情動と結びついて、様々な反応を引き起こす」(坂部医学部長)。
例えば、ある香りを「嫌い」と感じる場合は、自分にとって危険なものだと認識している状態になる。逆に「好き」だと感じる人は、その香りに適応して慣れ親しむため、危険なものとは感じない。
化学物質過敏症の人がにおいを感じる時には、思考や感情など脳の高次機能を担う前頭葉の血流量が変動することが分かっている。また、においの刺激が視床・視床下部に変調をもたらすと「自律神経の働きが乱れて心身の不調を引き起こすことがある」(宮田院長)。
化学物質過敏症を予防するには、暮らしの中で化学物質をなるべく避けることが望ましい。体調不良を感じた時にはその場から離れる。
室内では換気が重要だ。「1~2時間に1回は窓を開ける。空気清浄機では換気はできないので注意を」(坂部医学部長)。適度な運動などでストレスを緩和することも大切だ。「化学物質過敏症になる人は、ストレス対処が苦手な傾向がある」(坂部部長)
宮田院長は「栄養状態を整え、有害物質を体外へ排出するのに必要なビタミンやミネラルをとってほしい」と助言する。特に、中枢神経を安定させ免疫に働くビタミンD、抗酸化作用のあるビタミンCとともに亜鉛もとりたい。
化学物質過敏症は誰もが発症する可能性がある。自分には問題がないと感じる香りやにおいであっても、他の人にとっては苦痛になることもある。しっかり認識して、不快感や体調不良を感じる人への十分な配慮を忘れないようにしたい。
(ライター 田村知子)
[NIKKEIプラス1 2021年1月16日付]
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