お礼の言葉にどう返せば良いか…
女優、美村里江さん
順番を譲ったり、閉まりかけたエレベーターのボタンを押さえたりすると「ありがとう」と感謝されますが、どう返して良いかが分かりません。こちらも気持ちよく返事をしたいのですが「どういたしまして」はかしこまりすぎな気がしますし、「はい」も違和感を覚えます。ふだんは「いいえ」と濁していますが、どの言葉が適切でしょうか。(東京都・20代・女性)
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言葉に敏感な相談者さんの姿勢、とても素晴らしいと思います。ほかの人への親切が行動だけでなく、ささやかな返答にまで行き渡れば、もう怖いものなしですね。
それと同時に、相談者さんはすぐにお芝居ができる人だろうと、役者の私には想像がつきます。言葉を自分のものではなく、相手のためのものと直感的に理解されているからです。少し説明しますね。
役者にとって、台本の読み込みは役作りの第1プロセスですが、せりふ覚えにばかりウエートがかかると少しバランスが崩れてきます。
せりふを「自分の所有物」としてこね回しているうちは、あまりうまくならないんです。例えば、せりふを覚えやすいように蛍光マーカーなどでチェックする役者もいますが、これが行き過ぎると自分のせりふのみ頭に入れて、ほかを覚えてこないようになってしまうことがあります。
このまま現場に入って覚えただけのせりふを口にすると、みなさんご存じの「棒読み」や「何かしっくりこない」演技になってしまうのです。
せりふは自分の心に根ざしたものでなくてはいけませんが、相手のもの、観客のものと思う方が自然になると私は思っています。
さて、それを踏まえて相談者さんの「ほどよい返答」を考えてみましょう。相談者さんが相手からささやかな親切を受けた場面。「ありがとうございます」というお礼に、相手がどう返してくれたら気持ちよいでしょうか?
明るい声で「いいえ」と控えめに言いつつ顔はニッコリ、くらいはどうでしょう。表現の微調整には、「言葉」と「表情」を両方使うのが便利です。エレベーター内部など顔の見えにくい場でも、ゆっくりした会釈など、相手に自分のスタンスを伝える方法はたくさんあります。
模写も効果的ですから「こんな返答、すてきだなぁ」というお手本を見かけたら、まねし続けましょう。最初はしっくりこなくても、そのうち身についてあなたのオリジナルになります。
言葉は相手のための道具です。悩ましい場面も、いろいろ使い続けて慣れていきましょう。
[NIKKEIプラス1 2021年1月9日付]
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